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中谷ミチコ デコボコの舟/すくう、すくう、すくう

2022年12月15日号

会期:2022/11/30~2023/01/22

アートフロントギャラリー[東京都]

壁も床も真っ白い会場の中央が台状に盛り上がり、その上に舟形の白い彫刻が鎮座している。高波に持ち上げられた舟、というより、山に取り残された舟か。その表面には人や鳥や犬や木や小舟や焚き火までが刻まれ、薄く彩色されている。刻まれるといっても浮き彫りではなく、もののかたちを凹ませる陰刻ってやつ。タイトルどおり《デコボコの舟》(2022)なのだ。中谷は以前、実体のない舟の表面にやはり人や木などの浮き彫りを施した作品をつくったことがある。舟の周囲に人や木をへばりつかせ、舟本体を空洞化したものだったが、今回はそれを反転させ、舟本体に負の存在を刻印したかたちだ。



中谷ミチコ《デコボコの舟》


そのたたずまいがノアの方舟を想起させるせいか、表面に彫られた人や木はなにか神話的な物語性を感じさせるが、作者によれば「協働と、拒絶を同時に繰り返しながら何かから逃げている人たち」を思いながらつくったという。協働と拒絶という相反するものを繰り返すこと、それは人間社会そのものであると同時に、正と負、虚と実、凹と凸を巧みに織り込んだ彼女の彫刻の作法を思わせないでもない。しかしそこから逃げる人たちとはなんだろう?

別の展示室には、両手のひらで水をすくう所作を陰刻した《すくう、すくう、すくう》(2021)が展示されている。これは昨年の「奥能登国際芸術祭」に出品するためにつくったもので、コロナ禍のため移動もままならず、地元の人たちの手のひらを写真に撮ってもらい、それを見ながら制作したという。水をすくう手だから器状になっていて、そこに透明樹脂を満たして固めている。底をのぞくと、しわの寄った手の甲が見える。手のひらをのぞいたら、なぜか裏側が見えるのだ。これは手が反転しているというより、手の陰刻であり、実体が失われた負の彫刻というべきだろう。ちなみにタイトルの3回繰り返される「すくう」には、それぞれ「掬う」「救う」「巣食う」の字が当てられている。これも意味深。



中谷ミチコ《すくう、すくう、すくう》



公式サイト:https://www.artfrontgallery.com/exhibition/archive/2022_10/4709.html

2022/11/26(土)(村田真)

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