artscapeレビュー
山岸剛「Tokyo ru(i)ns」
2022年12月15日号
会期:2022/11/01~2022/11/14
ニコンサロン[東京都]
山岸剛は2021年に『東京パンデミック──カメラがとらえた都市盛衰』(早稲田大学出版部)と題する著書を上梓している。新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言下の東京の様相を、写真とテキストで批評的に浮かび上がらせた意欲作だが、新書版という制約もあり、掲載されたモノクロームの写真図版の解像度、大きさが不足していて、その意図がうまく伝わり切れていないもどかしさも感じた。今回のニコンサロンでの個展に出品された23点は、同書におさめられたものが中心だが、カラー写真でプリントされ、大きく引き伸ばされているので、面目を一新する作品展示になっていた。
山岸は、展覧会に合わせて刊行した小冊子『Tokyo ru(i)ns』で、2019年6月から開始された横長、あるいは縦長のパノラマ画面で東京の各地を撮影したシリーズについて、こんなふうに書いている。
「東京を廃墟に見立て、遺跡として眺める、東京を、かつて華やかなりし都の跡を望むように、ある距離をとって、遠みから観察する。未来に破局が起こってわれわれの文明が滅び去った、その残骸の只中で、異郷からの客として見知らぬ遺跡の発掘現場に初めて立ち会っている、そんなふうに眺める」
この意図は、今回の展示作品でほぼ過不足なく実現しているのではないだろうか。「ある距離をとって、遠みから観察する」という視点を貫くことで、東京湾岸地域を中心としたパンデミック下の東京のうごめきが、異様なほどにありありと浮かび上がってきていた。パノラマ画面の写真による視覚的な情報量の拡張が、とてもうまく活かされたシリーズといえる。
もう一つ印象に残ったのは、東京の写真群の前(展覧会の始まりのパート)に一枚だけ、「2011年5月1日、岩手県宮古市田老野原」の写真が展示されていたことである。山岸には『Tohoku Lost, Left, Found』(LIXIL出版、2019)という著書もあり、東日本大震災以後の東北地方・太平洋沿岸の建造物を、克明に記録してきた。「Tokyo ru(i)ns」の撮影を開始したバックグラウンドに、東日本大震災があり、その経験が「東京を廃墟に見立て、遺跡として眺める」という発想につながっていったことがよくわかる展示構成だった。
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2022/20221101_ns.html
2022/11/07(月)(飯沢耕太郎)