artscapeレビュー
水越武「アイヌモシㇼ──オオカミが見た北海道──」
2022年12月15日号
会期:2022/11/10~2022/11/27
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
水越武は、1988年に長野県御代田町から屈斜路湖畔の北海道弟子屈町に写真撮影の拠点を移した。以来、30年以上にわたって、北海道の自然・風土にカメラを向け続けてきた。今回、北海道新聞社からそれらの写真を集成した新刊写真集『アイヌモシㇼ──オオカミが見た北海道──』が刊行されるのを記念して開催された本展では、数ある写真群から選りすぐった33点を展示していた。
タイトルの「アイヌモシㇼ」というのは、アイヌ語で「人間の大地」を意味する言葉だという。山、海、森、川、湿原などが織りなす北海道の大自然は、この言葉とは裏腹に、人間の営みを寄せつけない厳しさを孕んでいる。それは、もはや絶滅したとされるエゾオオカミが100年以上前に目にしていた風景ともいえる。水越は人工物を一切画面に入れずに、まさに「オオカミが見た北海道」の姿を撮り続けてきたのである。
地を這うように北海道の大地を移動し、時には天空から鳥の眼で地上を見降ろしつつ撮影された写真群は、見方によっては美しい絵のようでもある。DMなどにも使われた、満月の夜に草を食む鹿たちを撮影した写真はその典型だろう。だが、一見日本画のようなこの写真が、実際の場面を撮影したものであることに、むしろ凄みを感じる。北海道の風景は人を寄せつけない厳しさを持ちながらも、崇高な美しさをも感じさせるのだ。水越にとっては北海道とのかかわりの総決算とでもいうべき、記念碑的な写真展、写真集になったのではないだろうか。
公式サイト:https://fugensha.jp/events/221110mizukoshi/
2022/11/10(木)(飯沢耕太郎)