artscapeレビュー

藤野一友と岡上淑子

2022年12月15日号

会期:2022/11/01~2023/01/09

福岡市美術館 特別展示室[福岡県]

岡上淑子の展覧会に掲げられた年譜などで、「1957年、画家・藤野一友と結婚」「1967年、藤野一友と離婚」といった記述を目にするたびに、どこか奇妙なズレを感じていた。藤野一友の画業について、それほど詳しいわけではないが、理想化された女性の裸体を前面に押し出した、緻密な幻想絵画の描き手であることは承知していたので、その作風と、岡上の繊細だが凛としたたたずまいを持つ写真コラージュ作品とがうまく結びつかなかったのだ。今回、初めて開催されたという岡上と藤野の作品が同時に並ぶ展覧会を見て、長年の疑問が氷解するように感じた。この異質な二人のアーティストたちの出会いと別れがもたらしたものが、それぞれの作品に宿っているように思えたからだ。

ともに1928年生まれの岡上と藤野は、1951年ごろに、二人が在籍していた文化学院で出会う。藤野は読売新聞社主催の日本アンデパンダン展などに出品し、1957年の二科展で特待となって、新進画家として認められていく。一方、岡上も瀧口修造に見出されて1953年にタケミヤ画廊で個展を開催し、その清新なコラージュ作品で注目を集めた。だが、1957年の結婚後、岡上は家事に追われ、コラージュや写真作品の発表は滞りがちになる。1959年に長男が誕生するが、1965年には藤野が脳卒中で倒れ、右半身が不自由になった。諸事情があって、二人は1967年に離婚し、岡上は息子とともに出身地の高知に移った。

このように二人の経歴を辿ると、すれ違いが目立つ邂逅だったといえそうだ。だが、彼らが互いに影響を及ぼしつつ、作品を制作していたことも確かだろう。岡上のコラージュ作品も、藤野の絵画と同様に女性の身体(ヌードも含む)が重要なモチーフになっているし、藤野の作品制作にあたって、岡上が助言することもあったようだ。確かに「藤野作品では、家父長的な戦後日本社会における男性優位のまなざしを、岡上作品では戦後の日本で女性が抱いた夢と苦悩を読み取ることも可能」(本展リーフレット)であることはその通りだと思う。だが同時に、二人のアーティストたちの世界が、互いを触媒としたきわめて独特な化学反応によって生じたことも事実だろう。それは、同じ時代に同じ空間を共有することがもたらした奇跡といえるのではないだろうか。


公式サイト:https://kyoto-ex.jp/2019/

2022/11/18(金)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00063059.json l 10181143

2022年12月15日号の
artscapeレビュー