artscapeレビュー

all is graphics

2022年12月15日号

会期:2022/11/10~2022/11/27

ヒルサイドフォーラム[東京都]

ビニール素材でできた「フラワーベース」、ミラー加工を施したカップにソーサーの柄が映り込む、トリックアートのような「ミラーカップ&ソーサー」など、プロダクトブランドD-BROS/DRAFTには、ちょっとした仕掛けが楽しい商品がそろっている。DRAFTに所属しアートディレクションの仕事をしていた頃から、このD-BROS専属デザイナーとして活躍していた植原亮輔、渡邉良重が立ち上げた会社、KIGIが今年で10周年を迎えた。これはその10年の活動を振り返る展覧会だ。

本展を観て痛感したのは、彼らはデザイナーあるいはアートディレクターとしての職能を十分に発揮する一方で、自身の作家性を非常に大事にするタイプではないかという点だ。特に展覧会の場では、それが引き立って見えた。その作家性とは、強いて言うなら子どもの頃にお絵描きや切り絵、工作、手芸などを経験してワクワクしたときのような純粋さである。大人になってもそんな純粋さを創作の核として持ち続けているからこそ、上記で挙げたようなありそうでなかった楽しい商品が生まれるのではないか。


展示風景 ヒルサイドフォーラム


そのためか、本展では彼らの個人的な作品にとても目が引かれた。例えば「時間の標本 #002」では、壮大な時間をかけて結晶化した色鮮やかな鉱物一つひとつを瓶に閉じ込めるという試みをしていた。地球の創造を担った鉱物に、長い時間の経過を見出したのだ。また植原による写真作品も興味深かった。北海道や沖縄の海辺などを写した風景写真なのだが、画角の真ん中に鏡を置き、自分の背面の視野の外にある景色をあえて写り込ませるという趣向を凝らしていた。何ということはない風景の中に、部分的に異次元ポケットのような違和感をつくり出し、見る者を引きつける。 そうした日々のちょっとした気づきや実験を形にする行為は、彼らのなかで創作の種となり、いつかどこかのタイミングで芽が出て花が開き、仕事に生かされるのだろう。言わば、その種や芽、花を見せてもらったような展覧会でもあった。しかし私も経験上わかるが、どの仕事もスムーズにうまく運ぶわけではない。成功の影にはいくつもの失敗があるし、クライアントワークにはさまざまなストレスやトラブルがある。本展でキラキラと輝く彼らの仕事や作品を眺めながら、同時に目に見えない苦労も感じ取った。


展示風景 ヒルサイドフォーラム



公式サイト:http://ki-gi.com/aig2022/

2022/11/25(金)(杉江あこ)

2022年12月15日号の
artscapeレビュー