artscapeレビュー
宛超凡「河はすべてを知っている──荒川」
2022年12月15日号
会期:2022/11/15~2022/11/28
ニコンサロン[東京都]
宛超凡は1991年、中国河北省出身の写真家。2013年に来日して明治大学、東京藝術大学の大学院で学び、いくつかの公募展でも入賞を重ねている。ここ数年、あちこちで台頭しつつある中国出身の若手写真家のひとりである。
今回の展示では、埼玉県と東京都を流れる荒川をテーマにしている。流路延長173キロメートル、流域面積294平方キロメートルという荒川は、巨大都市・東京を貫いて東京湾に注ぐ。ということは、荒川を撮影することによって「東京という都市の、様々な側面」を浮かび上がらせることができるということだ。宛は、6×18センチ判のパノラマサイズのカメラを使うことで、次々に目の前にあらわれてくる荒川流域の両岸の風景を、客観性に徹した姿勢で記録していく。展示では、大きく引き伸ばした作品とフィルムをそのまま密着露光してフレームにおさめたプリントとを並置することで、源流から河口へと川を辿っていく視覚的経験をより細やかに提示していた。なお、本展の開催に合わせて同名の写真集も刊行されている。横長の判型に、紙をつなぎ合わせた経師本形式で写真図版をおさめており、とてもよく考えられた造本だった(デザイン=唐雅怡)。
宛は次のプランとして、中国の上海を流れる黄浦江を撮影する予定だという。もしそれが実現すれば、東京と上海という二つの都市と河川との関係をとらえたシリーズになるだろう。中国と日本の都市の歴史、環境、文化の違いもまた、そこからくっきりと浮かび上がってくるはずだ。
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2022/20221115_ns.html
2022/11/25(金)(飯沢耕太郎)