artscapeレビュー

片岡利恵「あわせ鏡」

2022年12月15日号

会期:2022/11/14~2022/11/20

Place M[東京都]

ありきたりの、美しい花の写真ではない。また、花々の生命力=エロスは充分に感じられるのだが、それを手放しで礼賛しているわけでもない。その儚さもまたしっかりと捉えきっている。何よりも花を通して、まさに「あわせ鏡」のように自分自身の存在を照らし出そうとしている姿勢が、切実感をともなって伝わってきた。

片岡利恵は7年ほど前から写真を本格的に撮影するようになり、その時点で花をテーマに定めた。花を選んだのは、彼女の本業が看護師であることから来ているのではないだろうか。いうまでもなく、生と死の境目の状況に常に直面しなければならない職業であり、そのなかで花々に接することに特別な思いを抱くようになっていったのではないかと想像できる。花の勁さ、脆さ、美しさ、猛々しさ、さらに生から死へそして再生へと移り動いていくあり方に、共感と感動を覚えつつシャッターを切っていることが、展示された写真群から伝わってきた。

会場構成にも工夫が凝らされていた。部屋の真ん中には、さまざまな古書が積み上がっており、そのページの合間に花の写真のプリントが挟み込まれている。小高い山のような本の群れは、花たちにとっての「腐葉土」を表現したかったのだという。壁面に並ぶ写真にも、3面のマルチ画面になっていたり、16枚の写真がモザイク状に組み合わされていたりと、写真の視覚的な情報を増幅しようとする試みがみられた。それらのすべてがうまくいっていたわけではない。だが、写真展のインスタレーションからも、やはり、ありきたりの花の写真で終わりたくないという思いを、強く感じとることができた。


公式サイト:https://www.placem.com/schedule/2022/main/20221114/exhibition.php

2022/11/15(火)(飯沢耕太郎)

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