artscapeレビュー
PMQと大館
2023年08月01日号
[香港]
香港には、警察関係の施設をうまくリノベーションしたプロジェクトが二つある。ひとつは前にも訪問したが、中環エリアの警察官舎を改造し、2014年にオープンした《PMQ(Police Married Quarters)》だ。かつての居室は、カフェや店舗、あるいはギャラリーやデザイン系の事務所などに転用され、おしゃれな文化スポットに生まれ変わった。もともと美しいプロポーションのモダニズムの建築であり、その良さが継承されている。また中央のイベントに使う広場の地下には、19世紀に学校だったときの遺構が保存されていた。もうひとつは、2018年に誕生した《大館(Tai Kwun/タイ・クゥン)》であり、PMQの近隣に建つ。これは旧中央警察、中央裁判所、ビクトリア監獄など、16棟の歴史的な建築群を飲食店や展示施設に改造したものだが、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した《JCコンテンポラリー(現代美術館)》(2018)と《JCキューブ》(2018)は、とりわけ大胆なデザインで目を引く。再生された鋳造アルミニムブロックを反復するクセの強い外皮に覆われた異形のヴォリュームが宙に浮き、遠くから眺めても、新旧の対比によって緊張感を与える。
大館では、二つの展覧会が開催されていた。現代美術館のパトリシア・ピッチニーニ「ホープ」展は、異種混淆のポスト・ヒューマン的な作風は変わらないが、まとまった個展を見るのは初めてだったので興味深い。独特の透明なパーティション、家具を転用した什器、展示室内における部屋そのものの構築、天上の空間インスタレーションなど、単体で作品を見るよりも、館全体で提示された世界観、文脈があることによって強度を増す。ヘルツォークらによる垂直に貫通する彫刻のような螺旋階段は力強い。
もうひとつの「ヴァイタル・サインズ」展は、香港風景のアイデンティティというべきネオン看板を取り上げ、その科学、製作法、実物を紹介する。近年、街から袖看板やネオンが撤去されているらしいが、皮肉なことに重要なデザインとして再評価もされているようだ。ヘルツォークらのヴォリュームの下にある屋外の大階段でも、ネオンサインによるインスタグラム向けのインスタレーションを設置している。なお、M+の向かいの建物でも、こうしたネオンの看板を修復していた。
HOPE—Patricia Piccinini(「ホープ」展):https://www.taikwun.hk/en/programme/detail/hope-patricia-piccinini/1206
Vital Signs(「ヴァイタル・サインズ」展):https://www.taikwun.hk/en/programme/detail/vital-signs/1222
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