artscapeレビュー
HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美
2024年01月15日号
会期:2023/12/16~2024/02/25(※)
三鷹市美術ギャラリー[東京都]
あらゆる媒体でデジタル化が進み、環境面からもペーパーレスが推奨される昨今、紙の存在意義が問われている。今後、日常生活で紙製品を使う機会が減っていくのだとしたら、紙はより希少なものとなり、かえって嗜好性や高級感が求められていくのだろう。鑑賞しながら、そんな風に思った。本展は、東京・日本橋に本店を構える老舗和紙専門店「榛原(はいばら)」が、明治から昭和初期にかけて製作した貴重な品々にスポットを当てた展覧会である。墨の付きが良く、繊維が緻密で、上品な光沢があると評判だった熱海雁皮紙をはじめ、小間紙と呼ばれた千代紙や書簡箋、絵封筒、ぽち袋、熨斗、団扇などがずらりと並んでいた。いずれにも色鮮やかな木版摺りが施されており、当時の人々がいかに身近な紙製品で絵や装飾を楽しんでいたのかが伝わった。
いまや便箋に手紙をしたためることは特別なこととなり、年賀状を交わすことも減り、代わりにメールやSNSで済ませてしまう時代である。また電子マネーが普及するずいぶん前から、ぽち袋に現金を忍ばせて心付けとして渡す習慣も少なくなった。このように日常生活で紙製品を使う機会が失われているのだ。一方でオフィスでも家庭でも無味乾燥なプリント用紙が幅を利かせ、紙に関する文化度が落ちてしまったと言わざるを得ない。
榛原の歴代当主らは、同時代の画家らと積極的に交流し、美しい絵柄の紙製品を生み出すことに勤しんだという。本展では河鍋暁斎や川端玉章、竹久夢二らが手掛けた千代紙などを観ることができ、改めて当時の紙文化の豊かさを感じ取ることができた。ちょっとした言伝から手紙、お金の受け渡しなどにこうした小間紙を媒体として使用していた時代では、一つひとつに時間と手間が掛かっていた分、人と人とのコミュニケーションにある種の潤いがあったのではないかと想像する。デジタル上で多くの情報をやりとりするいま、それは即時的で正確である一方、物質的な手掛かりがない。どちらが良いということではなく、私たちは高度な文明の便利さから離れられないながらも、時々、こうした工芸的な美に触れる機会が欲しくなるのである。
HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美:https://mitaka-sportsandculture.or.jp/gallery/event/20231216/
2023/12/26(火)(杉江あこ)