artscapeレビュー
「世界のごちそう」展
2024年01月15日号
会期:2024/01/05~2024/03/31
切手の博物館[東京都]
子どもの頃と比べて、切手を貼る機会が格段に減った。いや、正確には学生時代までは離れて暮らす家族や友人らに当たり前のように手紙を書いて、封書に切手を貼り、郵送していたような気がする。1990年代頃の話だ。いまやそんな機会はクライアントへ“紙の請求書”を送るときくらいしかない。それも多くがメール添付へと置き換わっている。このように切手を使う機会そのものが少なくなった時代だからこそ、せめて素敵な記念切手を手に入れて郵送したいとの思いがどこかにある。逆も然りで、自分宛に届いた封書にユニークな切手が貼られていると、少しだけ嬉しくなる。その切手のひとつが、日本の食をテーマにした「おいしいにっぽんシリーズ」切手だ。特に正円形の面積いっぱいに鍋物や麺類が俯瞰でリアルに描かれた切手は、シズル感たっぷりで、しげしげと眺めた記憶がある。
本展は、世界の伝統料理を中心とする美食が描かれた切手をアジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、アメリカの五大陸別に紹介した展覧会だ。現在、切手を発行していない国はないことから、切手は万国共通のメディアと言える。時代ごとにデザインに流行り廃りはあるものの、生活文化が成熟したいま、食は万国共通で愛される題材なのだろう。というわけで、一つひとつのサイズは小さいが、本展は世界美食紀行の様相となっていた。
一覧したところ、日本の料理は馴染みの郷土料理ばかりで食欲をそそり、ヨーロッパの料理は豪華でおいしそう。アメリカの料理は豪快な量だが、失礼ながらあまりおいしそうには見えず、アフリカの料理になるとよくわからないものが多かった。またオセアニアやアジアの料理にはイモムシ料理やバッタ料理などもあり、思わず目を見張った。それをおいしそうと思うか否かは別問題として、確かに描かれた美食にはお国柄が顕著に表われていた。
かつて切手コレクションはもっともポピュラーな趣味のひとつだった。もうそんな時代は過ぎ去ったのかもしれないが、本展を通して、切手を眺める楽しさを改めて味わったのである。
「世界のごちそう」展:https://kitte-museum.jp/2023/12/07/k20240105/
2024/01/06(土)(杉江あこ)