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「写された外地」 吉田謙吉・名取洋之助・鈴木八郎・桑原甲子雄・林謙一・赤羽末吉(JCIIフォトサロン)

2024年01月15日号

会期:2023/11/28~2023/12/24

日本カメラ博物館[東京都]

タイトルの「写された外地」の「外地」というのは、旧満洲国(現・中国東北部)および内モンゴル地域である。今回の展示では、1930年代から40年代にかけて吉田謙吉(舞台美術家、デザイナー)、名取洋之助(写真家、編集者)、鈴木八郎(写真家、編集者)、桑原甲子雄(アマチュア写真家)、林謙一(内閣情報局情報官)、赤羽末吉(画家、絵本作家)の6人が当地で撮影した写真を集成している。

撮影者の社会的な立場、ものの見方の違いが、それぞれの写真に如実に出ているのが興味深い。名取、鈴木、林の写真は報道写真家の視点で、視覚的な情報を適切に切りとって画面におさめていく。桑原の眼差しはより柔軟で多面的だ。吉田や赤羽の作品からは、写真撮影そのものが目的というよりは、あくまでもデザインや絵画の素材として考えていたことが伝わってくる。共通しているのは、当時の日本人にとっての「新天地」であった旧満洲国やモンゴルの風土、習俗、人々の暮らしへの驚きと憧れを含み込んだ眼差しであり、そのことが、彼らの「内地」を撮影した写真との違いを生んでいるように見える。思いがけない角度から、この時代の日本人の写真表現の動向にスポットを当てた好企画といえるだろう。

ところで、本展をキュレーションしたJCIIフォトサロンの白山眞理は、来年に定年を迎えることになり、これが最後の大規模写真展企画となるという。白山はこれまで、名取洋之助の連続展をはじめとして、1920~40年代に活動した日本の写真家たちを積極的に取り上げ、綿密な研究・調査に基づいた写真展を開催し続けてきた。その業績を顕彰するとともに、今後も戦前・戦中の写真家たちの仕事を跡づけていく仕事が、同フォトサロンでしっかりと継承されていくことを望みたい。


「写された外地」 吉田謙吉・名取洋之助・鈴木八郎・桑原甲子雄・林謙一・赤羽末吉(JCIIフォトサロン):https://www.jcii-cameramuseum.jp/photosalon/2023/10/11/34156/

2023/12/08(金)(飯沢耕太郎)

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