artscapeレビュー
上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす —菌類、植物、動物、人間
2024年01月15日号
会期:2023/11/16~2024/01/08
東京都美術館[東京都]
面白い展覧会だった。出品作家は小林路子、辻永、内山春雄、今井壽惠、冨田美穂、阿部知暁の6名。それぞれジャンルは違うが、菌類、植物、動物、鳥などの生きものの姿を、細部まで緻密に写しとる作風のアーティストたちだ。小林路子の精密なきのこたちの博物画や、内山春雄の鳥たちの色彩やフォルムがリアルに再現されたバードカービングが代表的なのだが、どの作品にも単なる「うつし」ではない力が備わっているように感じた。
タイトルにある「いのち」をどう捉えるのかというのが眼目かもしれない。「いのち」は移ろいやすく、刻々とかたちを変えていくので、それを定着するのはむずかしい。むしろ、対象物に成り切る/憑依するようなプロセスが必要になるのかもしれないと感じた。例えば今井壽惠の馬の写真や、冨田美穂の牛、阿部知暁のゴリラの絵の場合、アーティストは対象と同化しつつ写真や絵の制作に没入しているように見える。「いのち」というレベルでは、菌類も植物も動物も、そして人間もまた、同じ生命循環のプロセスのなかに組み込まれているということだろう。
なお、隣接するギャラリーBでは、関連企画として「動物園にて──東京都コレクションを中心に」が開催されていた。こちらは上野動物園関係の資料を中心として、動物園という場所に関連する写真、絵画などの作品が展示されている。特に写真部門は充実していて、東京都写真美術館が収蔵する東松照明、長野重一、富山治夫、林隆喜、児玉房子らのプリントが出品されていた。「エピローグ」として展示された、酒航太の「ZOO ANIMALS」シリーズ21点も見応えがあった。ただ、「いのちをうつす」と「動物園にて」のパートとの相互的なつながりがうまく見えてこない。会場構成、リーフレットなどに少し工夫が必要だったのではないだろうか。
上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす —菌類、植物、動物、人間:https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_uenoartistproject.html
2023/12/19(火)(飯沢耕太郎)