artscapeレビュー
ピョトル・ブヤク「LOOK」
2024年01月15日号
会期:2024/01/10~2024/01/28
小金井アートスポット シャトー2F[東京都]
JRの中央線、武蔵小金井駅の南口から徒歩5分。巨大なイトーヨーカドーと駅ビルの合間を進み、いきなり空が広くなったところにある「小金井アートスポット シャトー2F」でポーランドのベンジン出身であるピョトル・ブヤク(Piotr Bujak)の個展が開催された。
会期がまだ残っているので詳細な描写は差し控えるが、本展にあるものをざっくり伝えるならば、ひとつの映像作品とひとつのサウンド作品だ。映像作品は過去作であり、もう片方は作家が小金井に滞在するなかで収録した音声を用いて制作されている。未就学児から60、70代の地域住民に協力してもらい収録されたと作家から聞いた。割合短い音声がループしているのだが、その音声は実にきわめて匿名的であるがゆえに、音ひとつからいくつもの情報を探ろうとしてしまう。立ったり、しゃがんだり、歩き回ったり。映像も音声作品も、会場にあるステイトメントに記載されていた制作方法、さらにはインストールまで、かなりシンプルだ。
作家が音声を収録したのは13名。その収録は作家がスマートフォンを手持ちした状態で協力者の口元にかざすようにして実施された。収音はスタジオでもなく、高性能なマイクが用いられたわけでもなく、ピョトルが自身の方法を説明する言葉の通り、「低予算、素早く雑に、DIYで、打って走る(Low Budget, Quick and Dirty, Do It Yourself and Hit and Run)」という志向が形になっている。
脱技術(deskilling)は前衛芸術にとって、既存の世界(の価値)を破壊する手法であり思想だった。その手法をピョトルは持続可能な展示、表現の在り方の模索のための参照源へと読み替えているということも、本展の見どころのひとつだろう。このとき、本展のあらゆる仕様が芸術という余白だらけで志向性や文脈を根源的には規定しえないもののアクティビズム性の最大化として浮かび上がってくる。具体的に言うならば、ピョトルによる民主的技術の徹底、展示のしつらえの簡素さ、展台の高さの調整にはレンガが無造作に積まれていること(作品に合わせて展示台を作成しない)、作品の匿名性の高さ(脱スペシフィシティ)、ポータビリティ(この展示はどこでもすぐに巡回可能だろう)といった在り方だ。
そして重要なのは、本展のいずれの作品にしても、「なにを表現しているのか」「なにを想って作られたのか」というような参照先が明示されていないことだろう。しかしながら、本展であれば例えば、「ゴミ袋に入った人体」や「苦しそうな呼吸」や「消えていく呼気」といった事物から、この場所に訪れることができる観賞者がいま何を想像する可能性があるかということは、方向づけられているのではないだろうか。それもまた、ピョトルならではのスピードが実現する表現の造形法だと思った。
本展は無料で観覧可能でした。
ピョトル・ブヤク「LOOK」:https://artfullaction.net/gallery-event/look/
2024/01/11(木)(きりとりめでる)