artscapeレビュー

ミーヨン「KUU」

2024年01月15日号

会期:2023/12/01~2023/12/24

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

ミーヨンは韓国・ソウル出身で、1991年からは東京を拠点に作家活動を継続している。これまで写真集『Alone Together』(Kaya books、2014)、『よもぎ草子──あなたはだれですか』(窓社、2014)などのほか、エッセイ集の刊行、国内外での展覧会の開催など、多面的な仕事を展開してきた。その表現行為の核心がどこにあるのか、なかなか掴みきれなかったのだが、今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での展示を見て、腑に落ちるものがあった。

すでに8月にアルル国際写真フェスティバルで発表されたという本作は、「仏教の基本的な教理」である「空(KUU)」をテーマとしている。とはいえ、決して小難しく観念的な写真ではない。写っているのは、シャボン玉、花火、金属のドアや窓に映る光景、水面、草むらなど、ごく身近に見出すことができる被写体ばかりだ。ややブレたりボケたりしている写真もあるが、多くはストレートに写しとっている。これまでは主に黒白写真で発表してきたが、今回はカラー写真を用いてやや淡い色調でプリントしていた。そのこともあって、これまでの作品よりも、穏やかに自足した画面へのおさまり方に見える。

だが、写真を見ているうちに、ミーヨンの関心がむしろ被写体の実体よりは、それらが移ろいながらかたちを変えていこうとしている様相を捉えることにあることがわかってきた。「なにものもそれ自体では存在しない」、「すべては顕現という、たえまないプロセスの中にある」という「色即是空」の教理が、それぞれの在り方であらわれてくる刹那を写しとった写真群といえるだろう。その狙いはかなりよく実現しているのだが、まだ途中経過のように見えなくもない。いま撮り進めているという「聖地」のシリーズとも呼応させつつ、ひと回り大きな作品として完成させていってほしいものだ。


ミーヨン「KUU」:https://fugensha.jp/events/231201miyeon/

2023/12/09(土)(飯沢耕太郎)

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