artscapeレビュー

小松浩子「Channeled Drawing」

2024年01月15日号

会期:2023/12/02~2024/01/20

KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY[東京都]

建築工事の資材置き場のようなノイジーな場所を撮影した写真を、ロール紙のような大判の印画紙に焼き付け、定着液の匂いが漂うような状態で、展示会場に吊り下げたり張り巡らしたりする──小松浩子の写真展といえば、そのようなインスタレーションを想像する者が多いのではないだろうか。ところが、今回のKANA KAWANISHI PHOTOGRAPHYでの展示は、その予想を大きく裏切るものだった。黒と白のミニマルなたたずまいの画像がフレームにおさめられて、淡々と並んでいるだけだったのだ。

何やら不分明な凹凸が刻み込まれたように見える黒っぽい画像は、地面をフロッタージュしたもので、白っぽい画像はそのフォトグラムだという。そこには、数字とアルファベットでデータらしきものが添えられている。説明を聞かないと、小松が何を意図しているのかは掴みにくいだろう。じつは彼女がフロッタージュを試みたのは、殺人事件の現場で、データはその場所の緯度・経度、発生年、殺害方法、犠牲者の数だという。

コンセプチュアルな手法によって、生々しい社会的、個別的な事件の概要を普遍化して浮かび上がらせるというやり方が、とてもうまくいっていると感じた。思考とプロセスとのつながりに無理がなく、種明かしをされても白けるということがない。静かな自己主張ではあるが、新たな写真表現の領域を果敢に切り拓こうとしている意気込みが伝わってきた。なお、作者のステートメントと梅津元によるテキストをおさめた同名の小ぶりな作品集が、MAN CAVEから刊行されている。


小松浩子「Channeled Drawing」:https://www.kanakawanishi.com/exhibition-ph027-hiroko-komatsu

2023/12/15(金)(飯沢耕太郎)

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