artscapeレビュー

田窪恭治 展──風景芸術

2011年03月15日号

会期:2011/02/26~2011/05/08

東京都現代美術館[東京都]

田窪恭治の個展と聞いて、いったいなにを出すのだろうと思った。ぼくが最初に見た田窪さんの「作品」は、たしか山岸信郎さんがやっていた神田の田村画廊か真木画廊での個展だったが、ギャラリーに入るとガラーンとして作品らしきものはなにもなく、片隅のテーブルにウィスキーの空きビンが置いてあるだけ。こういうのが「現代美術」なのかと、当時20歳の美大生は途方に暮れたものだった。のちにそれが、どうやら「バーボンが1本空くまでのはなし」というイベント(まだパフォーマンスという言葉すらなかった)の残骸であることを知るのだが。それが80年代になるとなぜか廃材に金箔を貼ったオベリスク状の立体になり、建築家とともに廃屋に手を加えた「絶対現場」を経て、90年代の大半をフランスの小さな礼拝堂の再生プロジェクトに費やし、現在は故郷の四国で金刀比羅宮の文化顧問として琴平山の再生計画を手がけている。その数奇な歩みはさておき、肝腎の美術館に運び込んで展示できる作品はオベリスク以外ないではないか、いったいどうやって巨大な展示空間を埋めるんだろうと疑問に思ったのだ。でもそんな浅はかな考えを一蹴するかのように田窪さんはやってくれました。礼拝堂再生プロジェクトと琴平山再生計画を可能な限り原寸大で再現する(田窪は「再現」というより「東京ヴァージョン」だという)大規模なインスタレーションを展開したのだ。展示室内に建築をもう1軒つくるようなものだから、いくら巨大な現代美術館でも大きすぎることはない。もっとも経費はそれだけ膨らむが。そんなわけで、ここ20年の田窪さんの建築がらみの仕事を紹介(というより再考)する意味合いが強く、それ以前の「絶対現場」は写真のみ、オベリスクは1点もなかった。

2011/02/25(金)(村田真)

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