artscapeレビュー
暑さと衣服──民族衣装にみる涼しさの工夫
2011年10月01日号
会期:2011/07/05~2011/09/24
文化学園服飾博物館[東京都]
東日本大震災にともなう原子力発電所の事故により、この夏はさまざまな場面で節電が求められた。エアコンの設定温度も高くなり、例年よりも蒸し暑い環境で過ごさざるをえなかった。緑のカーテンなどの自然の利用や、スーパークールビズの提案など、人工的な気温調節手段に頼らずに過ごすためのさまざまな工夫や提案が話題にもなった。震災による節電の必要は一時的なものだろうが、近年の猛暑を考えれば、このような取り組みはこれからも積極的に継続していく必要がある。
「暑さと衣服」展は、気温の高いさまざまな地域で発達してきた民族衣装を分析し、涼しさを創り出すための機能を考える企画である。「暑い」と一口にいっても、その性質は多様である。一日の気温があまり変化せずに暑い地域もあれば、昼夜の温度差が激しい地域もある。日差しが強い地域では身体全体を覆い隠す必要があるし、湿度が高い地域では衣服の中を空気が移動し、熱を放出するための工夫がなされる。一年を通じて気温が安定していて衣服による体温調節が必要ない地域もある(ペニスケースまで展示されていた)。衣服の発達には文化的な側面からの影響が大きいはずであるが、それをいったん捨象して、気候と衣服の機能との関わりを科学的に考察する試みはとても面白い。クールビズ、スーパークールビズと和服とで、暑さの感じかたの違いを検証した実験や、涼しさを可能にする素材の分析などもあり、文化学園ならではの好企画であった。[新川徳彦]
2011/09/14(水)(SYNK)