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第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展

2018年11月15日号

会期:2018/05/26~2018/11/25

ジャルディーニ地区、アルセナーレ地区ほか[イタリア]

いつもは夏だったので、10月にヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展を訪れたのは初めてだが、5月にスタートでも、週末はこんなに多くの人が来るのかと改めて驚く。おそらく、妹島和世が全体のディレクターをつとめた2010年のビエンナーレが、日本の建築家のプレゼンスが過去最大だったことを踏まえれば、今回はやや寂しかった。アルセナーレのエリアでは、伊東豊雄による作品の幾何学性を紹介する映像インスタレーション(《台中国立歌劇院》の個展で使われていたもの)、SANAAによる曲面ガラスの空間インスタレーション、手塚建築研究所の《ふじようちえん》など、手堅く秀作を出品している。ただ、すでにエスタブリッシュされた建築家なので、新しい世代ではない。またアルセナーレと道路を挟んで向かいの香港の展示では、建物の内外に100の実験的なスカイスクレーパーをベタに並べており、一見馬鹿らしいが、これだけ夢のある提案のビルが数多くそろうと壮観で、なかなか興味深かったが、そこに思いがけず、竹山聖も出品していた。

さて、ジャルディーニの日本館はサイズが小さいので、室内でやる限り、どうやってもドイツ館やフランス館のようなダイナミックなインスタレーションを実践することが難しい。こうした状況を意識したのか、今回の貝島桃代、ETHのロラン・シュトルダー、学芸員の井関悠による企画「東京発 建築の民族誌──暮らしのためのガイドブックとプロジェクト」は、ピロティに立体を置いているものの、館内はすべて平面という過去にない展示だった。その内容はメイド・イン・トーキョー的な試みを世界各地から収集するというもので、42組の作品を紹介し、環境の建築的な観察図面集といった趣きである。ビエンナーレならではの祝祭性は控えめとし、美術館で開催するようなきれいにまとまった展示だった。いずれのドローイングも、じっくり読み込むと、相当な情報量をもつが、日本語の図であっても一切翻訳や解説がないのには驚いた(逆にTOTO出版から刊行されたカタログは、本のサイズという限界がるためか、クローズアップの図版も入れて、絵解きを付している)。読むな、視覚的なコミュニケーションを解読せよ、というメッセージだろう。ともあれ、環境やアクティビティをていねいに読みとることに、現在の日本建築界の特徴もよくあらわれていた。

伊東豊雄の映像インスタレーション(左)、SANAAのインスタレーション(右)


手塚建築研究所《ふじようちえん》


日本館ピロティ


tomito architecture《CASACO》


「パレスチナ難民キャンプの都市計画と活動」(左)、宮下幸士「フランスの地図」(右)


アーキエイド牡鹿半島支援勉強会「浜のくらしから浜の未来を考える」


オズワルド・コトノウ「暮らしを取り戻すために」(上)、クリムゾン・アーキテクチュラル・ヒストリアンほか「人々の歌が聞こえますか?」(下)

2018/10/05(金)(五十嵐太郎)

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