artscapeレビュー

《太陽の鐘》《シェアフラット馬場川》《Mビル(GRASSA)》《なか又》、「つまずく石の縁 ─地域に生まれるアートの現場─」

2018年11月15日号

[群馬県]

数年ぶりに前橋を訪れた。萩原朔太郎記念館からそう遠くない場所に、市の新しいシンボルとして岡本太郎の《太陽の鐘》が登場した。設置場所の空間デザインを手がけたのは、藤本壮介である。なるほど、鐘を吊るす三日月状のオブジェは太郎らしい造形だが、土を盛ったランドスケープの上の24mに及ぶ、やたらと長〜〜い撞木も笑える。商店街のエリアでは、藤本による老舗旅館をホテルに改造する大胆なプロジェクトが進行中だったほか、石田敏明による《シェアフラット馬場川》(2014)、また2018年に完成した隣り合う中村竜治のリノベ風新築の《Mビル(GRASSA)》と長坂常の店舗《なか又》(さらに横にもうひとつ建築家の物件が増える予定)などがあり、明らかに新しい建築によって活気づいている。つぶれた百貨店を美術館にリノベーションしたアーツ前橋が登場し、都市に刺激を与えているのだろう。なお、前橋は、藤本による初期の住宅《T-HOUSE》もある街であり、なにかと縁が続いている。

さて、開館5周年を迎え、岡本太郎の展覧会を開催しているアーツ前橋の館長、住友文彦にインタビューを行ない、文学館との共同企画ほか、美術以外の地域文化を積極的に紹介する試みについて、いろいろと話を聞いた。後発の美術館として、いまさら高額の印象派の絵を揃えるのではなく、必然的に地域の資産を掘り起こすことになったという。その後、もう一度、街に出かけ、白川昌生の木馬祭、そして片山真里やケレン・ベンベニスティらの国内外の作家が参加するまちなか展開「つまずく石の縁」を一緒に見てまわった。展示場所としては、各地の空き店舗やシャッターを活用している。当初から美術館の外でも、アートの展示を積極的に推進してきたアーツ前橋らしい企画である。途中、住友氏があちこちで街の知人に声をかけたり、かけられており、5年のあいだに構築してきた街と美術館の親しい関係がうかがえた。道路にも美術家の展覧会と文学館のバナーが並んでおり、地方都市のスケールメリットを生かしている。

《太陽の鐘》(左)とその撞木(右)


《シェアフラット馬場川》(左)、《Mビル(GRASSA)》(右)



《なか又》


白川昌生の木馬祭


「つまずく石の縁」展 片山真里


関連記事

2018年11月01日号キュレーターズノート|足利市立美術館「長重之展 ─渡良瀬川、福猿橋の土手─」/アーツ前橋開館5周年記念「つまずく石の縁 ─地域に生まれるアートの現場─」(住友文彦)

2018/10/14(日)(五十嵐太郎)

2018年11月15日号の
artscapeレビュー