artscapeレビュー

熊谷聖司「EACH LITTLE THING」

2014年04月15日号

会期:2014/03/17~2014/03/30

蒼穹舍[東京都]

このところの熊谷聖司の動き方を見ていると、水がどこからともなく湧き出し、流れていくような気持のよさを感じる。昨年から今年にかけて、かなりたくさんの数の個展を開催しているのだが、あまり無理をしているようには見えない。かつて「もりとでじゃねいろ」(1994)でデビューした頃の勢いのよさが、いい具合に脱力感のある表現に変質しつつあるのだが、写真そのもののクオリティは決して落ちてはいない。それどころか、その融通無碍の作風は、あまり類を見ないユニークなものに育ちつつあるのではないだろうか。
「EACH LITTLE THING」は、文字通り日々目にする「小さなもの」をつかみ取っては撒き散らした作品群。ひょいひょいと被写体をつまみ上げる手つきの軽やかさは、鮮やかとしかいいようがない。思わず笑ってしまうような写真も多く、俳句というよりは川柳の趣もある。展示作品には、サインペンでなんともいい味わいのドローイングや言葉の描き込みをしているものもあり、それが幸福感あふれる画像ととてもうまくマッチしていた。
だが、会場のコメントに次のようにあるのを読むと、熊谷が「軽み」だけに頼っているのではないことがよくわかる。
「2011.3.11以降 写真を撮ること それを発表することについて 考えてきた 『わたしの欲望とは何か』 それを常に見つめていきたい」
「欲望」というのは言うまでもなく、写真家にとっての基本的な欲求である「撮ること」、「それを発表すること」を指しているのだろう。そのことの意味を、熊谷はこのシリーズを編み上げながら、いつも生真面目に問い直し続けているのだ。なお「EACH LITTLE THING」は各22~23枚の写真がおさめられた10冊の写真集として刊行される予定だ。現在はそのうち5冊目まで刊行済みである。

2014/03/25(火)(飯沢耕太郎)

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