2021年08月01日号
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artscapeレビュー

宮下マキ『その咲きにあるもの』

2009年11月15日号

発行所:河出書房新社

発行日:2009年10月5日

1975年生まれの宮下マキは、まさに90年代の「女の子写真」世代の写真家。2000年に刊行した『部屋と下着』(小学館)も、若い女性のプラーベート・ルームを撮影するという話題性で注目された。
だが、僕は以前から彼女はいいドキュメンタリー写真家になる資質を備えていると睨んでいた。被写体に密着し、時間と空間を共有しながら、粘り強く長期にわたって撮影を続けていく。その才能は、この『その咲きにあるもの』でも充分に発揮されている。タイトルがわかりにくいのが難ではあるが、内容的にはとてもストレートな、気持ちのいいドキュメントだ。被写体になっているのは「洋子」という二人の子どもがいる女性。乳癌が発見され、乳房の切除及び再建手術を3回にわたって受ける。その間の彼女の身体や表情の変化、周囲の反応、そして季節の巡りが、センセーショナリズムを注意深く避けて淡々と描写されていく。
「いつも私とカメラの間には。ほんの短いズレがある。/ずっと、それを恥ずかしいことだと思っていた。/でも、今は違う。/今はそのズレを感じていたい。/喜びも、痛みも、生きることも、死ぬことも、少し後に感じていたい」。「ズレ」や「揺らぎ」を含み込んだ、女性形のドキュメンタリーのあり方を、宮下はしっかりと、誠実に模索し続けているのではないだろうか。

2009/10/07(水)(飯沢耕太郎)

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