artscapeレビュー

007スカイフォール

2013年02月01日号

会期:2012/12/01

日劇[東京都]

アクション映画の敵役といえば、冷戦時代ならソ連、その後はイスラム諸国や中国、そしてロシアなど、いずれにせよアメリカを中心とした覇権的な構造から導き出されることが多かった。ところが、「007」シリーズの最新作に登場する敵は、MI6の元エージェント。組織に忠誠を誓って奉仕してきたにもかかわらず、組織に裏切られ、復讐の鬼と化してMI6を恐怖と危機に陥れる。いわば身から出た錆だが、そのような敵対性のありようが、外部に敵を対象化することのできない今日の複雑な政治的リアリティーと同期していたように思えた。ラビリンスのような上海や退廃的で甘美なマカオなどの映像はたしかに美しい。しかし、この映画の醍醐味は、その映像美も含めて映画の全編に漂っている、言いようのない哀愁感である。それが、時代の趨勢から取り残されつつあるボンドやMの衰退に起因していることはまちがいない。だが同時に、敵を内側に抱え込まざるをえない私たちの悲哀にも由来していたのではないだろうか。

2013/01/01(火)(福住廉)

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