2022年10月01日号
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artscapeレビュー

2019年11月15日号のレビュー/プレビュー

金峯神社、沢田マンション

高知で2つのセルフビルド建築を訪れた。ひとつは高知工科大学で教鞭をとる建築家の渡辺菊眞さんの分割造替・金峯神社、もうひとつは有名な沢田マンションである。


前者は地方の過疎化と高齢化する山間地において長い間、補修する費用がなく、ほとんど崩れかけていた神社を復活させるプロジェクトだ。興味深いのは、「分割造替」と命名したように、その際、拝殿と本殿に分割し、前者を地域住民が集まりやすい低い場所に移動させ、おかげで途絶えていた祭りが再開されたことである。一方、後者は江戸時代にさかのぼる小さい本殿だけを残し、老朽化していた覆屋は解体し、もとの敷地の隣に再建した。


そして驚くべきなのは、いずれも単管やポリカーボネートなどを用いた超ローコストのセルフビルドであること。したがって、見たことがない造形であり、簡素なデザインだ。一般的に寺院は建築家による新しいデザインが登場しやすいが、保守的な神社ではそれが難しい。だがここは、厳しい状況ゆえにラディカルな新しい神社モデルが成立した。もっとも、日本各地の限界集落の神社では、おそらく似たような状況を迎えているはずである。



金峯神社の拝殿



金峯神社の本殿に続く、壊れた鳥居と階段



金峯神社の本殿


念願の沢田マンションは、大きなショッピングセンターの近くにたつ。これは1971年から夫婦がセルフビルドで建設した5階建て集合住宅である(本来はもっと高い階数をめざしていたらしいが)。よくここまで許されたと思う凄まじいプロジェクトであり、世知辛くなってしまった現代日本ではもうできないだろう。

興味深いのは、シュヴァルの理想宮のように、この手の建築は装飾的になりがちだが、沢田マンションはそれがなく(住人が後から加えたと思われる装飾はあるが)、基本的にはコンクリートのヴォリュームが強調されたモダニズム系の造形だ。もっとも、合理的なプランというよりも、コンクリートの迷宮のような空間体験を味わう。また広い通路(植栽などが置かれ、コミュニティ・スペースになっている)、両サイドを貫通するヴォイド、多様な間取りなど、いかにも現代の建築家がやりそうなデザインも散見されて興味深い。


沢田マンションの外観



沢田マンションのスロープと階段



沢田マンションの通路



沢田マンションの屋上庭園


2019/10/30(水)(五十嵐太郎)

辰野金吾と美術のはなし 没後100年特別小企画展

会期:2019/11/02~2019/11/24

東京ステーションギャラリー[東京都]

辰野金吾は「建築家になったからには、日本銀行本店と中央停車場(東京駅)と帝国議会議事堂(国会議事堂)を設計したい」と語っていたそうだ。藤森照信による、そんなエピソードから本展は始まる。結構な野心家だったんだなという印象を抱くが、実際のところ、そうでなければ壮大な夢を叶えられなかったに違いない。おそらく野心があったおかげで人一倍勉学に励み、工部大学校(現・東京大学工学部)を首席で卒業し、英国へ官費留学ができた。帰国後は恩師ジョサイア・コンドルの後を継いで同校の教授となり、その後、自身の事務所を立ち上げて本格的に建築設計の道を歩んでいく。そして日本銀行本店と中央停車場を設計する夢は叶えた。帝国議会議事堂の設計については、自ら設計競技を提案し審査に携わる途中で、スペイン風邪に罹り逝去してしまう。残るひとつは夢半ばであったが、最期まで野心を燃やし続けた人なのだ。

辰野が没して100年を迎えた今年、彼が設計した日本銀行本店本館(日本銀行金融研究所貨幣博物館)、旧・日本銀行京都支店(京都文化博物館)、そして東京駅丸の内駅舎(東京ステーションギャラリー)の3館でそれぞれに企画展が開催された。東京ステーションギャラリーでは、学生時代に出会った洋画家、松岡壽との交友関係を軸に美術との関わりを紹介しつつ、中央停車場の貴重な図面を展示している。当初、ドイツ人鉄道技師のフランツ・バルツァーが瓦屋根を冠した複数棟から成る和洋折衷の中央停車場設計案を出すが、それを辰野が引き取り、華やかなヴィクトリアン様式に変えたといったエピソードも紹介される。脱亜入欧が国是であった明治時代、産業革命以後の英国の都市景観から生まれたこの様式を採用することは必至だったのだろう。青図(青焼き)の平面図や立面図、断面図などがいくつも展示されていて、それらを眺めると待合室の多さに驚くが、それが当時の駅に求められた機能だったことがわかってくる。日本の近代建築の第一世代が辿った足跡に触れられる展覧会である。

辰野・葛西建築事務所《中央停車場建物建築図 北立面図》1910頃[鉄道博物館蔵]

辰野・葛西建築事務所《中央停車場建物展覧図》1911頃[鉄道博物館蔵]

現在の東京駅丸の内駅舎(北口)[©Yanagi Shinobu]


公式サイト:http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201911_tatsuno.html

2019/11/02(杉江あこ)

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日本のアートディレクション展 2019

会期:2019/10/23~2019/11/16

ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)/クリエイションギャラリーG8[東京都]

ADC(東京アートディレクターズクラブ)の年次公募展「日本のアートディレクション展」が今年度も開催された。ギンザ・グラフィック・ギャラリーとクリエイションギャラリーG8の2館で同時開催され、前者では会員作品のADCグランプリ、ADC会員賞、原弘賞をはじめ数々のノミネート作品の展示が、後者では一般作品のADC賞10点の展示が行なわれた。類似のJAGDA賞ではグラフィックデザインが中心であるのに対し、ADC賞はコマーシャルフィルムや環境空間なども含めた広告全般を対象にしている点が特徴だ。今年度、ADC賞に選ばれたひとつ、三井住友カード「企業広告」コマーシャルフィルムは、「電子マネー元年」と言われる現代の世相を象徴する内容だった。どこの国なのかわからない荒野に立つ青年が、旅人に出会い、「お金とは何か」という概念的な問いを突きつけられる。登場する役者は日本人なのに、まるで西部劇かロードムービーのワンシーンでも観ているような気分になる。こうした優れたコマーシャルフィルムがあることに、日本の広告業界もまだ捨てたものではないと思わされた。

ADC賞10点のうち3点も受賞したアートディレクターの三澤遥にも注目した。そのうち1点は自身の個展の環境空間であるが、2点はいずれも情緒的な手法を取りながら社会の問題解決に挑んでいたからだ。岡村印刷工業「興福寺中金堂落慶法要散華 まわり花」のジェネラルグラフィックは、紙の折りの構造を工夫することで、散華として空中に撒いたときに一輪の花のように映るようにした作品だ。人の目の残像を利用して、平面から立体への展開を可能にした。またLinne「LINNÉ LENS」のスマートフォンアプリは、スマホをかざすだけで1万種類もの生き物の名前を瞬時にサーチするAI図鑑である。生物多様性の問題を考えるきっかけを与えるという点で、やはり現代の世相を象徴する内容だ。

展示風景 クリエイションギャラリーG8[写真:那須竜太]

ADCグランプリを受賞したのは、アートディレクターの井上嗣也が手がけたCOMME des GARÇONS「SEIGEN ONO」のポスター、ジェネラルグラフィックである。これは約30年前のコム・デ・ギャルソンのファッションショーで使用された、ランウェイミュージックのオムニバスアルバムの復刻版である。凛とした黒い鳥を正面や側面から切り取った、写真の力を最大限に生かしたアートワークだ。コム・デ・ギャルソンといい、オノ・セイゲンといい、個性の強いクリエイターたちの作品であるにもかかわらず、それらに引けを取らず、と言って殺さず、絶妙なバランスでまとめている点が印象的だった。またADC会員たちによる審査風景を記録した短い映像が会場で紹介されていた点も良かった。身内による身内作品の審査ではあるが、審査の透明性や公平性を多少証明できたのではないか。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー[写真:藤塚光政]


公式サイト:
http://www.dnp.co.jp/CGI/gallery/schedule/detail.cgi?l=1&t=1&seq=00000741
http://rcc.recruit.co.jp/g8/?p=23149

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ギンザ・グラフィック・ギャラリー第370回企画展 続々 三澤遥 | 杉江あこ(artscapeレビュー/2018年12月15日号)

2019/11/02(土)(杉江あこ)

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カタログ&ブックス | 2019年11月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
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横浜美術館30周年記念 美術でつなぐ人とみらい

寄稿者:朝吹真理子、五十嵐太郎、伊藤亜紗、円城塔、岡田利規、鈴木理策、ドミニク・チェン、奈良美智、西沢立衛、平田オリザ、森村泰昌
発行:河出書房新社
発行日:2019年10月29日
定価:2,200円(税抜)
サイズ:B5判、136ページ

みなとみらいの中心に位置する都市型美術館の先駆として開館30周年を迎える横浜美術館。豪華執筆陣の小説・写真・論考など充実したクリエイションで街と美術館の未来について思いを馳せる。

キース・へリング〜アートはすべての人のために〜

総監修:梁瀬薫
編集長:藤原えりみ
デザイン:小池俊起
発行:美術出版社
発行日:2017年8月3日
定価:4,400円(税込)
サイズ:A4 変型、ソフトカバー、200ページ

「中村キース・へリング美術館」開館10周年を記念して発行される、80年代アメリカのアートシーンを代表する画家、キース・へリングの魅力のすべてが詰まった一冊。地下鉄のラクガキドローイングにはじまる彼のアーティストとしてのキャリアは、1990年に亡くなるまでの10年間。ヘリングは短い人生を疾走するように創作活動を展開。本書は美術館の10年間の歩みをたどりつつ、所蔵作品を中心に、ドローイング、立体ほか約160の作品を掲載。暴力や差別を否定して平和や生きる歓びをメッセージとして発信し、人間の意識や社会のあり方を変えていこうとしたヘリングの幅広い活動を紹介する。

VIRAL: Enrico Isamu Oyama

監修:梁瀬薫
執筆:林道郎、櫻林恵美理、梁瀬薫、大山エンリコイサム
デザイン:小池俊起、林頌介
発行:中村キース・ヘリング美術館
発行日:2019年8月10日
定価:4,600円(税込)
サイズ:A4判、80ページ

中村キース・ヘリング美術館にて、2019年5月より開催中の大山エンリコイサム個展「VIRAL」の展覧会カタログ。 本書には同展覧会のインスタレーションビューをはじめ、大山によるステートメント、美術史家の林道郎による論考を収録。 当館ならではの視点から、キース・ヘリングとの共通性にも迫る一冊となっています。

窓展 窓をめぐるアートと建築の旅

学術協力:五十嵐太郎
編者:東京国立近代美術館
発行:平凡社
発行日:2019年11月
定価:2,500円(税抜)
サイズ:B5版、206ページ

美術作品に現れる「窓」は作品モチーフとして建築の一部として、さまざまな思いを想起させる。東京国立近代美術館の展覧会公式図録。

アンチ・アクション 日本戦後絵画と女性画家

著者:中嶋泉
発行:ブリュッケ
発行日:2019年9月
定価:3,800円(税抜)
サイズ:22cm、362ページ

草間彌生、田中敦子、福島秀子。3人の女性画家の画業をたどり、日本の戦後美術史と戦後美術運動のジェンダー的問題点を探りだし、「女性画家もいる」美術史を構築しようとする試み。

転形期のメディオロジー 一九五〇年代日本の芸術とメディアの再編成

編著者:鳥羽耕史、山本直樹
発行:森話社
発行日:2019年9月
定価:4,500円(税抜)
サイズ:A5判、352ページ

1950年代の日本で、テレビに代表されるニューメディアの出現が、印刷媒体中心であった既存のメディアをいかに変容・再定義していったのか。
本書では、主に文学・映像・美術のジャンルにおいて、異なるメディア間での相互交流、越境、再編成と、それらが作品や表現にもたらしたものを再検討し、現代の錯綜するメディア状況を歴史化する視点を提示する。

増補版 ゴダール マネ フーコー 思考と感性とをめぐる断片的な考察

著者:蓮實重彥
発行:青土社
発行日:2019年10月24日
定価:2,400円(税抜)
サイズ:B6判、302ページ

映画史、絵画史、思想史を横断する。
20世紀の「あらゆる映画はサイレント映画の一形式でしかない」と論じ、21世紀の「ポスト・トゥルース」と呼ばれる時代の「ポスト」について分析する2本のテクストを増補。

Holy Onion

著者:題府基之
エッセイ:クリス・フジワラ
ブックデザイン:服部一成
発行:オシリス
発行日:2019年10月20日
定価:4,800円(税抜)
サイズ:A5判変型、ハードカバー、蛇腹製本、エッセイ収録冊子付、164ページ

一人の女性がキッチンで玉ネギの皮をむく写真がひたすら続く──。あまりに日常的な、それでいてこの上なく非日常性を孕む光景。収録されているのは、フィルム1本分全35カット。1枚の写真にその人物を象徴する瞬間がとらえれているのがポートレイト写真だとすれば、『Holy Onion』は、既成のポートレイト写真への問いかけであるのかもしれない。「1枚で見せるポートレイトってことじゃなくて、35枚全部で一つのポートレイト。今回たまたま35枚でしたが、5枚でも10枚でも1枚じゃないポートレイトに最近興味がある」と題府は語る。『Still Life』、『Hypermarché – Novembre(大型スーパー、11月)』(ミシェル・ウェルベックとの共著)に続く待望の新刊写真集。





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2019/11/15(artscape編集部)

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