artscapeレビュー

2021年01月15日号のレビュー/プレビュー

SURVIVE - EIKO ISHIOKA 石岡瑛子 グラフィックデザインはサバイブできるか

会期:2020/12/04~2021/03/19(※)

ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]

※展示入れ替えあり。前期:2020/12/04~2021/01/23/後期:2021/02/03~2021/03/19

東京都現代美術館で開催中の展覧会「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」に引き続き、本展も観た。石岡瑛子の情熱を象徴するような赤をキーカラーとする演出や、彼女のインタビュー音声を会場中(本展はB1会場のみ)に流す試みが同様に行なわれていて、彼女の熱いメッセージをダイレクトに届けたいという狙いが強く伝わった。特に1F会場は石岡の言葉でほぼ構成されている。「いつも崖っぷちに立ってる、そんな実感があるわね。(中略)クリエイティビティの本質はそういうことの中にありますから。」「瞬発力と集中力と持続力を身につけて、知性と品性と感性を磨く。磨いて、磨いて、磨きつづける。(後略)」「不安と期待と自信が錯綜している時間を持たない仕事はダメだと私は思う。」どの言葉も強く、重みがあり、心に深く響いた。デザイナーだけでなく、多くの人々に彼女の言葉をぜひ噛み締めてほしいと思う。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー1F[撮影:藤塚光政]

B1会場に移ると、インタビュー音声が聞こえてくる。会場の環境のせいか、東京都現代美術館よりもクリアに耳に届き、作品を観ながらも聴き入ってしまった。印象的だったのは、「グラフィックデザイナーはグラフィックデザインの本質をもっと考えなければならない」と語るところである。そうしないと「停滞してしまう」と石岡は言う。その点に本展のタイトル「グラフィックデザインはサバイブできるか(生き残れるか)」の意味が込められているのだろう。時代は目まぐるしく変わる。人々の趣味嗜好や生き方も変化するうえ、多様化がどんどん進んでいく。それに対してデザイナーがただ漫然と仕事をしていては、停滞どころか退化しかねない。だから「デザイナーもアスリートと同じで、徹底的に自分を鍛えないと。そうしてオリジナルな何かを生み出せないと、サバイブなんてできないですよ。」ということなのだ。1960〜70年代にグラフィックデザイナー・アートディレクターとして広告の世界で成功を収めたにもかかわらず、1980年初頭に米国ニューヨークへ単身で渡り、新たな挑戦を始めた石岡。いまの時代から見ても、その行動力と勇気には脱帽する。しかしそんな魂がすり減るほどの挑戦があったからこそ、彼女は大きな飛躍ができたのだ。爪の垢を煎じて飲んでもできなさそうな偉業に圧倒されつつも、勇気をもらった。

展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリーB1[撮影:藤塚光政]


公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000761

関連レビュー

石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか|杉江あこ:artscapeレビュー(2020年12月15日号)

2021/01/06(水)(杉江あこ)

artscapeレビュー /relation/e_00055259.json s 10166458

カタログ&ブックス | 2021年1月15日号[近刊編]

展覧会カタログ、アートやデザインにまつわる近刊書籍をartscape編集部が紹介します。
※hontoサイトで販売中の書籍は、紹介文末尾の[hontoウェブサイト]からhontoへリンクされます




現代アートを殺さないために ソフトな恐怖政治と表現の自由

著者:小崎哲哉
発行:河出書房新社
発行日:2021年1月5日
サイズ:19cm、384+18ページ

『現代アートとは何か』の著者が政治や経済とアート業界とのあいだに起こっているさまざまな問題をえぐり出し、2020年代の“政治とアート”の動向を鮮やかに予言する。書き下ろし。



建築情報学へ

監修:建築情報学会
編集:池田靖史、豊田啓介、角田大輔、木内俊克、石澤宰、杉田宗、小見山陽介、富井雄太郎
デザイン:佐藤亜沙美
発行:millegraph
発行日:2020年12月25日
サイズ:21cm、234ページ

デジタルテクノロジーは、私たちの日常に欠くことのできないものとして、もはや意識されることもないほど社会に浸透した。本書は、建築という分野を、情報学的観点および情報技術による広がりの先に定義しようと試みる。建築は常に他領域や技術から影響を受けながら変化し続けてきた。情報によって建築は、より領域横断的、より動的、より拡張的なものになるだろう。



西洋美術とレイシズム(ちくまプリマー新書)

著者:岡田温司
発行:筑摩書房
発行日:2020年12月9日
サイズ:18cm、185+6ページ

聖書に登場する呪われた人、迫害された人を、美術はどのように描いてきたか。長い歴史のなか培われた人種差別のイメージを考える。



時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏

著者:雪朱里
発行:グラフィック社
発行日:2020年11月10日
サイズ:22cm、295ページ

活字~写植~デジタルフォントと三世代にわたり続く日本の書体の歴史のなかには、その存在の重要さに関わらず、あまり知られていないデザイナーがいる。その筆頭が、金属活字・写植・デジタルフォントの三世代で書体デザイン・制作・監修を経験し、特に写研で大きな功績を残した橋本和夫さんだ。日本の書体史の主軸となる部分を築いてきた人である。本書では、橋本さんのロングインタビューを通して、これまであまり語られてこなかった、だが間違いなく現在のルーツとなる書体デザインの舞台裏を浮かび上がらせ、日本の書体の知られざる流れを紐解いていく。



「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」記録集1・2

編集:[記録集1]ヤン・ヴォー、ニック・アッシュ、植松由佳/[記録集2]植松由佳、中井康之
撮影:[記録集1]ニック・アッシュ/[記録集2]福永一夫
執筆:植松由佳
翻訳(和文英訳):クリストファー・スティヴンズ
デザイン:森大志郎
発行:国立国際美術館
発行日:2020年
サイズ:[記録集1]23.7×30cm、63ページ/[記録集2]21.8×29.8cm、24+28ページ

2020年に国立国際美術館にて開催された「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」展の記録集。2冊組。





※「honto」は書店と本の通販ストア、電子書籍ストアがひとつになって生まれたまったく新しい本のサービスです
https://honto.jp/

2021/01/15(金)(artscape編集部)

artscapeレビュー /relation/e_00052690.json s 10166838

2021年01月15日号の
artscapeレビュー