2017年09月15日号
次回10月2日更新予定

artscapeレビュー

林千歩『You Are Beautiful──Love Primavera!』

2012年07月01日号

twitterでつぶやく

会期:2012/05/23~2012/06/03

Art Center Ongoing[東京都]

昨年末の会田誠による展覧会「美術であろうとなかろうと」に参加して話題になっていた林千歩。おもに写真と動画を用いて構成された展示では、おじさんのメイクをして街中をうろうろしたり、兎になって砂浜で小さな糞の粒を落としたりする、その過剰で脱線気味の変身願望に、並々ならぬ表現意欲を感じた。本作では在籍中の東京藝術大学大学院の研究室プロジェクトで昨年夏に小豆島に赴いた林が、現地の老人たちとともに、島の伝説に基づく変身譚を演じてゆく。インスタレーションの中心に据えられているのは動画で、そこで林はマイマイカブリ(巨大カタツムリ)に扮し、老人たちは林(マイマイカブリ)に会うことで変身するのだが、その際老人たちは林が持参した若者の衣裳を身に纏うことになる。ここで起きているのは、互いに相手の世界に入り込み、つかの間、相手の世界を生きるといった、相互に相手と自分の世界を交換してみるといったパフォーマンスだ。若者風の化粧を施し、体育着に着替えた老人たちの姿は、違和感があってむずむずする。孫ほどに年齢差のある若者のリクエストに応えてあげたいという、愛情のようなものさえ透けて見える。相手の世界に入り込むという試みは、映像作家の常套手段かも知れないが、林の作品に特徴的なのは、それを試みるに際して、変身譚を全員で演じるという仕掛けを置いていること。この仕掛けが、あるいは物語というものに潜むファンタジーの力が、相互に世界を交換する変身へと彼らをやさしく誘っている。そのマジックが、展覧会タイトルにある「美しさ」を引き出しているようだった。変身させてくれたお礼としてマイマイカブリは老人たちから「宝物」(かつら、タオル、帽子など)をもらう。この宝物はボッティチェルリ『プリマヴェーラ』の登場人物を演じる老人たちのレリーフとともに、一枚の絵画に収められていた。ここでも(『プリマヴェーラ』の)物語を演じるという仕掛けが、彼らの出会いを結晶化させるのに、上手く機能していた。

2012/05/31(木)(木村覚)

▲ページの先頭へ

2012年07月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ