2017年11月15日号
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artscapeレビュー

須田一政『SUDDENLY』

2016年09月15日号

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発行所:Place M

発行日:2016年5月16日

須田一政は2015年に敗血症を患っていた。化膿連鎖球菌に侵され、炎症の程度を示すCRP値は最高40に達した(基準値は0.3以下)という。その「いつ心臓が停止しても不思議ではない状態」から帰還したあとに、体調回復のために入院していた病院の病室で、繰り返し写真を見直し、「選び抜いた」近作を集成したのが本書である。
まさに「生死の境」に去来し、うごめきつつ姿を変えていくようなイメージ群が、写真集のページから溢れ出すように並んでいる。このところの須田の仕事ぶりには鬼気迫るものがあるが、この写真集でもそのただならぬ凄みに、絶句してしまうような写真が目白押しだった。特に目につくのは、液晶テレビの画面を写している写真である。須田は洋画が好きなようで、それらの一場面が断片的な映像として写しとられている。ほかにも、看板やポスターの一部を切り取った写真も多い。須田は写真集のあとがきで、スタンリー・キューブリックの「妄想や実現しなかった夢を現実と同じくらい重要なものとして扱おうとした」という言葉を引用している。このような、映像(まさに「妄想や実現しなかった夢」)を現実と等価のものとして扱う姿勢は、初期の頃からあったのだが、それがより研ぎ澄まされ、融通無碍なものになりつつある。
同年齢の(76歳)の荒木経惟もそうなのだが、須田の近作を見ていると、老いをネガティブにとらえるのではなく、むしろ何かを呼び覚ましていく契機としてとらえ直していこうとしているように見える。幽冥の世界を自由に行き来する表現が、輪郭をとりつつある。

2016/08/10(飯沢耕太郎)

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