artscapeレビュー
実験工房 展──戦後芸術を切り拓く
2013年03月15日号
会期:2013/01/12~2013/03/24
神奈川県立近代美術館 鎌倉[神奈川県]
文字どおり、戦後の一時代を切り拓いた実験工房の活動は、これまで断片的には取り上げられてきたが、その全貌はなかなか見えてこなかった。活動期間が1951~57年という比較的短い期間(その前後にメンバー個々のコラボレーションはあるが)だったこと、造形美術、音楽、舞台芸術等の多分野にまたがる運動体だったことがその理由だろう。今回、神奈川県立近代美術館 鎌倉を皮切りに、いわき市立美術館、富山県立近代美術館、北九州市立美術館分館、世田谷美術館を巡回する本展は、その意味でとても有意義な企画と言える。
実験工房は瀧口修造を精神的な指導者(実験工房という命名も彼による)として、「造形部門」には北代省三、駒井哲郎、山口勝弘、福島秀子、大辻清司を擁し、「音楽部門」には園田高弘、武満徹、湯浅譲二、福島和夫、鈴木博義、秋山邦晴、佐藤慶次郎が加わっていた。ほかに舞台照明家の今井直次とエンジニアの山崎英夫もメンバーであり、幅広いジャンルの作品に対応できる体制が整っていたことがわかる。実際に、1951年11月の「ピカソ祭」で上演されたバレエ「生きる悦び」からスタートする彼らの活動は、まさにインター・メディア的な実験精神の開花であった。むろん現在と比較すれば、技術的にも資金的にも限界があるなかで、精一杯背伸びをした危うさを感じないわけにはいかない。だが、逆にういういしい出会いの歓びがどの作品からも伝わってくる。このようなジャンルを超えた共同作業が、いまは逆に生まれにくくなっているように思えてならない。
写真という表現領域について言えば、生粋の写真家である大辻清司と、のちに写真家として多彩な仕事をするようになる北代省三がメンバーに加わっていたのは、幸運であったと言うべきだろう。『アサヒグラフ』誌に1953~54年にかけて連載された「APN」と題するコラムでは、北代、山口、駒井らがオブジェを制作し、大辻が撮影した写真がタイトルカットに使用された。大辻や北代は、実験工房がかかわった舞台や展覧会の記録写真も撮影している。これらの写真群は、それぞれのアーティストたちの活動を側面から支えながら、時代の空気感をいきいきと定着する記録資料としても重要な意味を持つものと言える。
2013/02/05(火)(飯沢耕太郎)