artscapeレビュー
熊谷勇樹「そめむら」
2013年03月15日号
会期:2013/02/04~2013/02/21
ガーディアン・ガーデン[東京都]
志賀理江子の「螺旋海岸」を見た後、何人かの若手写真家の被写体へのアプローチにどこか共通した志向性を感じるようになった。儀式めいたパフォーマンス、過剰な光と影のコントラスト、濃密な色彩効果、画面の傾きやブレ・ボケのようなノイズの導入などだ。熊谷勇樹の作品にも、そんな傾きを感じないわけにはいかない。それを「時代の兆候」というのは先走り過ぎかもしれないが、若い写真家たちの現実世界への違和の感情が、もはやぎりぎりのテンションまで高まりつつあることの表われと言えるかもしれない。
熊谷の今回の個展は、昨年3月~4月に開催された第6回写真「1_WALL」展のグランプリ受賞作品「贅沢」を発展させたもの。大小の写真を壁に配置するインスタレーションも含めて、写真を通じて「不確かさ」を提示しようという意志がくっきりと表われていて、気持ちのいい展示だった。だが、ここから先がむずかしい。「どこの誰とも規定されずに彷徨っているような非決定的な写真を撮ることで、世の中のあらゆる手に負えないものや不合理なものの存在を証明したい」。このマニフェスト自体は間違ってはいないが、「非決定的な写真」に安住してしまうと、いたずらに断片を撒き散らすだけで終わりかねない。むしろ「手に負えないものや不合理なもの」にさらに肉迫し、それらのリアリティを引きずり出し、地図化(マッピング)していくような力業を期待したい。志賀理江子が「螺旋海岸」で成し遂げようとしたのは、まさにそういう作業の積み重ねだったのではないだろうか。
2013/02/07(木)(飯沢耕太郎)