artscapeレビュー
小林紀晴「kemonomichi」
2013年03月15日号
会期:2013/02/13~2013/02/26
銀座ニコンサロン[東京都]
小林紀晴の『メモワール 写真家・古屋誠一との二〇年』(集英社)は、人物ドキュメントの力作だった。投身自殺した妻の記憶を、写真集や写真展を通じて執拗に再構築し続ける古屋誠一を、長期間にわたって取材し続けてまとめたものだが、その過程で小林自身も得るところが大きかったのではないか。写真家に否応なしにつきまとう、すべてを見尽くしたいという「呪われた眼」を自覚したこともそうだが、写真を撮影し、選択し、構成する方法論においても、古屋の影響を大きく受けたのではないかと思う。古屋が「メモワール」のシリーズのなかで試みた、インパクトの強い隠喩的、象徴的なイメージを日常的な場面の写真に差し挟むことで「物語」に深みや奥行きを与えるやり方を、小林もしっかりと学びとったことが、今回の「kemonomichi」展からもしっかりと伝わってきた。
本展は昨年9~11月にキヤノンギャラリーSで開催された「遠くから来た舟」の延長上にあるものだろう。前回の個展では北海道から沖縄まで全国各地の聖地を訪ね歩き、祭礼や宗教儀式を中心に撮影したが、今回は彼の故郷である長野県諏訪地方に焦点を絞っている。諏訪には七年に一度の御柱祭のほかに春の御頭祭があり、「七十五頭の鹿の首が生け贄として捧げられる」のだという。小林は諏訪を撮り歩くうちに、この地に出雲から来た新しい神、ミシャグチと称されるそれ以前の土着の神、さらに最古層の縄文時代の信仰という三層構造があることに気がつく。御柱祭や御頭祭では、その構造が生々しく露呈してくるのだ。特に強調されているのは、熊、鹿、蛇、雉などの動物や鳥などの形象の持つ象徴的な喚起力だ。カラーとモノクロームを混在させ、出征兵士や御柱祭の古写真の複写なども効果的に使って、スケールの大きな時空の表現を実現していた。
なお、冬青社から同名の写真集も刊行されている。また、東京・茅場町の森岡書店では、古屋誠一を2000~2010年にかけて撮影したポートレートを集成した「背中を追って 写真家・古屋誠一への旅」(2月18日~23日)が開催された。
2013/02/19(火)(飯沢耕太郎)