artscapeレビュー
プレビュー:吉田アミか、大谷能生『ディジタル・ディスクレシア』、デュ社『春の祭典』、黒沢美香『この島でうまれたひと』
2015年08月01日号
舞台表現者であり、文筆家でもある吉田アミと大谷能生が〈吉田アミか、大谷能生〉という名義で『ディジタル・ディスクレシア』を上演する。大谷は、6月に『海底で履く靴には紐が無い』をロングラン上演したばかり。手塚夏子に刺激を受け、チェルフィッチュで力を発揮してきた山縣太一のアイディアを大谷は精確に舞台で具現したわけだが、ときを待たずして、今度は本人名義の新作を上演する。Googleドライブの共有機能を用いて書いてきた共同制作の小説(『Re;D』)を、2人の朗読によって舞台化するというのだ。ゲストは振付家・ダンサーの岩渕貞太、ファッション・デザイナーの有本ゆみこ、映像作家の斉藤洋平。徹底的にモダニスティックで、鑑賞者の混乱を誘う舞台になることを期待したい。ほかにも8月は見逃せない舞台が目白押しだ。昨年末の『ふたつの太陽』では、彼自身のルーツである舞踏からの脱皮を図り、新しいダンスのかたちを見せた向雲太郎(デュ社)が新作を上演する。タイトルは『春の祭典』となればこれはもう必見だろう。また、黒沢美香のソロ公演『この島でうまれたひと』も忘れてはならない。新作もあるのだが、とくに1985年の『Wave』は、世のモダニズム志向を標榜する若者たちには、トリシャ・ブラウン、イヴォンヌ・レイナー、あるいはローザスを信奉する君には、見ておいてもらいたい。前に10歩ほど歩いては後ろに戻りを延々と繰り返すそれは、日本のポストモダン・ダンス(なんて言い方はほとんど機能していないのだが)の初期作品として、歴史に刻まれるべき名作である。
2015/07/31(金)(木村覚)