artscapeレビュー
Contemporary NOREN
2015年08月01日号
会期:2015/07/10~2015/07/26
京都芸術センター[京都府]
昭和初期の面影が残る旧・明倫小学校を会場に、染色家たちが手掛けた暖簾が建物内外を飾った。出展作家は関西を中心に活躍する現代の作家20名。会場に一歩足を踏み入れると、敷地の門に、建物のエントランスに、廊下の仕切りに、部屋の出入り口に、建物各所に掲げられた暖簾に次々と出会う。布を吊るすだけで、周囲の空間には布のこちら側とあちら側ができる。暖簾をくぐって、その境界を跨ぎ越える。簡単な行為だが意外と楽しい。ただくぐるという行為、それだけで作品は鑑賞者一人ひとりの体験に入り込み、作品と鑑賞者との距離は一気に縮まる。同じ平面作品でも絵画などとは異なり、このようなことをいとも容易く成し遂げることができるのは、暖簾がありふれた生活品で誰にとっても親しみやすいものだからであろう。
敷地の門を飾ったのは、八幡はるみの幾何学模様の作品。強い形態と大胆な配置、コクのある色彩は暖簾としても堂に入っている。二階渡り廊下のアーチ型の入り口には、スリット・ヤーンで編んだ野田涼美の作品。校舎のレトロな雰囲気とその質感に、暖簾の金色の光沢が映えて優雅な印象が漂う。むらたちひろの作品は、周囲の建物内の様子を映した鏡のような趣向。淡い染め色が柔らかく滲み、一瞬、景色が揺らいだような錯覚に陥る。そのほか、伸びやかな手描きで染め上げたもの、表と裏から染めて複雑な奥行き感をつくりだしたもの、伸び縮みするチューブに布を巻き付けたものなど、その技法と表現の多様さには染色の可能性が十分に感じられた。7月、祇園祭を迎える京都。風に揺れる暖簾が似合う季節である。[平光睦子]
2015/07/12(土)(SYNK)