artscapeレビュー

村野藤吾の建築──模型が語る豊饒な世界

2015年08月01日号

会期:2015/07/11~2015/09/13

目黒区美術館[東京都]

日本を代表する建築家のひとり村野藤吾が生涯に設計した多彩な建築を精緻な模型で紹介する展覧会。いずれも京都工芸繊維大学美術工芸資料館の「村野藤吾建築設計図展」での展示に合わせて同大学建築学科の学生・大学院生が制作してきたものだ。同資料館が所蔵する村野・森建築事務所の設計原図の調査研究の成果を報告する場として1999年から2015年までに13回にわたって開催されてきた「村野藤吾建築設計図展」は、毎回いくつかの作品をとりあげて、設計図、スケッチ、写真やその他の資料、そして設計図から丁寧に起こされた模型によって村野建築のディテールを明らかにしてきた。今回の展覧会に出品されている80点の建築模型は、これまでの研究の集積であり、建築設計図展がディテールを見るものだとすれば、本展は村野建築の総体を文字通り俯瞰する試みだ。
 展示は東京の建築とアンビルト──計画案で終わった建築──のコーナーが設けられている以外は用途別に構成されている。和風・洋風の個人住宅から集合住宅まで、商業施設、ホテル、オフィス、大学校舎から美術館、庁舎などの公共的施設まで、村野藤吾が手がけた建築ジャンルの幅の広さとその表現の多様さが一目瞭然だ。数々の模型が並ぶ展示室はひとつの都市を再現したような空間になっている。建築に詳しくない筆者にとっては、見知ったあの建築もこの建築も村野藤吾の仕事だったのかと驚かされる。恥ずかしながら、自分が学んだ校舎が村野の設計であることも本展の模型で初めて知った。特別な建物だったという記憶がまったくないのだが、それもまた村野建築の一面なのだろう。目黒区の現総合庁舎は村野が設計した旧千代田生命本社ビル。目黒区美術館では毎年庁舎の建築ツアーを行なっており、本展はそうした村野建築との関わりから生まれた企画だそうだ。
 真っ白なボード紙でつくられた模型はすべて京都工芸繊維大学建築学科の学生によるもの。図面を読み、資料をあたり、現存する建築は実見し、ひとつの模型の制作には1000時間もかかっているという。建築設計図展は発表の場に過ぎず、学生たちにとっては図面の解釈から始まり模型の完成に至るまでのプロセス全体が課題だということも意識して見たい。[新川徳彦]


展示風景

2015/07/14(火)(SYNK)

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