artscapeレビュー

PHOTOGRAPHER HAL「Flesh Love Returns」

2017年05月15日号

会期:2017/04/03~2017/04/09

Place M[東京都]

PHOTOGRAPHER HALは2004年頃から「カップル」を中心に撮影するようになった。最初は狭いバスタブで撮影していたが、そのうち寝具収納用のビニールパックに2人を封じ込めるというアイディアを思いついた。ほぼ真空状態の中で抱き合っている「カップル」の姿は、メタフォリカルであるとともに、視覚的なインパクトも強い。今回のPlace Mの写真展では、2015年以降に撮影した新作を集成した写真集『Flesh Love Returns』(冬青社)から31点を選んで展示していた。
以前の同シリーズと比べてみると、「カップル」の周辺の環境をしっかりと写し込んでいる。今回の撮影に際して、HALは「カップルを彼らにとって一番大切な場所で撮影する」というコンセプトを貫いた。「一番大切な場所」をあらかじめ彼らに選んでもらい、そこに機材を持ち込んで撮影したのだ。当然、部屋の中だけでなく野外での撮影も多くなり、制約の多い公園や街頭での撮影は困難を極めたという。その甲斐があって、2人の関係のあり方を観客に想像させる回路がとてもうまくできあがっていて、見所の多いシリーズとして成立していた。
今回は日本だけでなく、オランダ、ベルギー、香港でも撮影している。さらにいろいろな場所に撮影範囲を広げるのも面白そうだが、逆に地域や集団を限定していく方向もありそうだ。作品が発するポジティブなエネルギーを大事にしつつ、さらに次の展開を考えていってほしい。なお、冬青社から作品57点をおさめた同名の写真集が刊行されている。

2017/04/09(日)(飯沢耕太郎)

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