2019年12月01日号
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artscapeレビュー

チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション

2018年02月15日号

会期:2018/01/30~2018/02/04

ロームシアター京都 ノースホール[京都府]

チェルフィッチュの代表作『三月の5日間』(2004年初演)のリクリエーションの京都公演。

『三月の5日間』は、2003年3月のイラク戦争開戦前後の5日間、ライブハウスで出会ったゆきずりの男女が渋谷のラブホテルで過ごして別れるまでの話を軸に、周囲の若者たちのエピソードが交差する。日常からの一時的な逃避行先としてのラブホ、その対極にあるもう一つの非日常=戦争、デモの祝祭感、旅行先の外国の街のように新鮮な高揚感で変貌した渋谷、「この5日間が過ぎたら戦争も終わっているかも」という楽観的な願望。しかし奇跡的な時間の終わりとともに回帰すべき「日常」はすっかり変質し、路傍のホームレスが犬に見え、非人間化の幻視が嘔吐という生理的反応をもたらす。これらのことが、誰かから聞いた出来事を「伝聞」として間接的に語りながら、いつの間にかその「誰か」を演じている、という伝聞形式の語り/再現=表象の複雑な往還運動のうちに展開され、発話主体の境界を曖昧に融解させていく。それは、「演劇」という制度へのラディカルな疑義の提出でもあった。

今回のリクリエーション版の上演では、以下の改変点が見てとれる。1)20代前半の若い俳優陣の採用。2)計7人の俳優の男女比の逆転と発話の振り分けの変更。3)台本の改訂。初演版の特徴である過剰な冗長さを保持しつつ、例えば「~なんですけど、」という言い回しで統一するなど、整理がなされている。4)舞台空間の変更。何もないフラットな空間から、抽象的でシンプルな舞台美術が出現した。

ここで、1)「20代前半の俳優の採用」は、このリクリエーション版の意義について考える際の要となる。彼らは、2003年当時、6~12歳であり、「イラク戦争開戦時の時代の空気感や渋谷の若者像」を同時代的な感性として共有あるいは記憶すらしていない。これは、「戯曲に描かれた若者たちの設定年齢には近づく一方、出来事としての共有からは遠ざかる」というジレンマを戦略的に引き受ける選択である。俳優たちは、この距離感をアプリオリなものとして引き受けたまま上演に臨まねばならない。この距離感を、「2003年の渋谷の若者のリアル」に擬態することで埋め合わせるのではなく、距離として測定すること。それは、「自身が体験していない、誰かから聞いた話を伝聞形式で語る」というスタイルとより親和性が高い。こう考えると、2)「発話の振り分けの変更」は必然的な選択だったのだと納得がいく。例えば、顕著な変更として、初演版の冒頭では、「ミノベくん」についての語りを男優2人が行なっていたのに対し、リクリエーション版では女優2人が担う。初演版では、「語り手」と「演じられるキャラクター」との境界の曖昧さや発話主体の錯綜が企図されていた。しかし、リクリエーション版では、「俺」という一人称や下ネタ的な単語が女性の口から発せられるという違和感の効果により、「語り手」と「演じられるキャラクター」との弁別や乖離はよりクリアに示される。3)「言い回しの統一的な処理」がこの弁別をより補強する。

「直接的な体験としては知りえないこと」に対してどう接近していけるのか。もどかしさや見えない圧力が俳優たちの身体に負荷をかけ続ける。極めて緩慢な歩みで「再現」されるデモの様子。「床に引かれた白線テープ」はデモ隊が歩く横断歩道へと変貌するが、指で摘まみ上げる別の俳優によって「現実の物質であること」が露呈され、フィクションは解体される。また、ある一つのシーンが、一人の俳優の内の「間接的な語り/再現」の切り替えに加え、複数の俳優によって視点や細部の言い回しを変えて何度も変奏的に反復されることで、時間軸が前進と後退を繰り返し、リニアな秩序を撹乱させる。語り、身体運動、そして反復によって「物語の単一のフレーム」は生起すると同時に揺さぶられる。それは、「2003年3月の5日間」という局所的な時空間に再び強固な輪郭を与えるのではなく、個別性を少しずつ丁寧に剥ぎ取り、「現在との距離」へと変換していくのだ。

この距離を固定化されたものとして描出せずに、その都度の上演の時空間のなかで立ち上がらせること。その距離の不安定な現われと測定のうちに、「2003年」から変化したものとしなかったものを聞き取ろうとすること。そこに本リクリエーション版は賭けられている。


[© Misako Shimizu 撮影:清水ミサコ]

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