artscapeレビュー
民俗写真の巨匠 芳賀日出男 伝えるべきもの、守るべきもの
2018年02月15日号
会期:2018/01/04~2018/03/31
フジフイルムスクエア 写真歴史博物館[東京都]
1921年生まれの芳賀日出男は現役最長老の写真家のひとりである。ここ数年、足が弱って車椅子が必要になったが、創作意欲にまったく衰えは見られない。1950年代以来、民俗写真一筋で歩み続けてきたその芳賀の代表作が、フジフイルムスクエア 写真歴史博物館で展示された。
「祭礼」、「人生儀礼」、「稲作」の三部構成、29点の作品を見ると、芳賀の眼差しのあり方がくっきりと見えてくる。その基本となっているのは、あくまでも民俗学の資料としての写真記録に徹する姿勢で、これ見よがしの主観的な解釈や、祭礼の場を乱すような行為は注意深く遠ざけられている。その結果として、芳賀の写真には祭事や儀礼の細部が、それに参加する人々の表情や身振りも含めてきちんと写り込んでおり、資料的な価値がきわめて高い。だが、それが無味乾燥な記録であるのかといえばけっしてそうではなく、そこにはその場所に身を置いているという彼自身の感動がいきいきと脈打っており、その波動がしっかりと伝わってくる。冷静な記録者としての姿勢と、祭りそのものに没入することの歓びとが共存しているのが、芳賀の民俗写真の最大の魅力といえるだろう。
それにしても、ここに写っている祭事や儀礼は、いまやほとんど行なわれなくなっているか、形骸化してしまったのではないだろうか。日本人の暮らしが根本的に変わったといえばそれまでだが、もしかすると、どこかに別なかたちで再生している可能性もある。つまり芳賀の後継者が必要なわけで、民俗写真のジャンルにも新風を吹き込んでいく必要がありそうだ。
2018/01/09(金)(飯沢耕太郎)