2019年12月01日号
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artscapeレビュー

吉村朗遺作展 THE ROUTE 釜山・1993

2018年02月15日号

会期:2018/01/12~2018/01/28

ギャラリーヨクト[東京都]

写真集『Akira Yoshimura Works──吉村朗写真集』(大隅書店、2014)の刊行を契機に、2012年に逝去した吉村朗の仕事の見直しが始まっている。そのなかで、写真展「分水嶺」(1995)以後の、韓国、中国などで撮影された、自らの家族史を、戦前・戦中の日本の侵略の歴史と重ね合わせようとした一連の写真群にあらためてスポットが当たってきた。だがそれ以前の、都市の光景にカメラを向けたカラー・スナップ作品については、その大部分が破棄されていることもあって手つかずのままだった。今回の「遺作展」に出品された36点は、アメリカの「ニュー・カラー」や牛腸茂雄の『見慣れた街の中で』(1981)に触発された初期のスナップショットと、「分水嶺」以降の作品のちょうど中間に位置するものといえる。

自室にまとまって保存されていたというやや色褪せたプリント見ると、吉村が韓国・釜山の路上を彷徨いながら、手探りで新たな方向性を見出そうともがいている様子が伝わってくる(一部中国で撮影された写真を含む)。写真の大部分は、ややローアングルのノーファインダーで撮影されており、画面が傾いているものも多い。その不安定な画像から色濃く滲み出してくるのは、違和感や不安感のようなややネガティブな感情だ。吉村はこの時点で、偶発的なスナップショットを続けていくだけでは、彼が構想しつつあったより政治性、社会性の強いテーマを定着するのは難しいと思い始めていたのではないだろうか。今後、さらに初期作品が出てくる可能性もある。『Akira Yoshimura Works』の拡大版の刊行も、そろそろ視野に入れてもいいかもしれない。

2018/01/12(金)(飯沢耕太郎)

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