artscapeレビュー
小平雅尋「在りて在るもの」
2018年02月15日号
会期:2018/01/13~2018/02/17
タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]
タカ・イシイギャラリーでの小平雅尋の個展は、ほぼ3年ぶり2度目になる。前回の「他なるもの」(2015)と同様に、今回の「在りて在るもの」でも、風景、物体、身体、建築物など、かなり幅の広い被写体をモノクロームで撮影した写真が並ぶ。ただ、前回と比較すると距離を詰めてクローズアップで撮影した写真が多く、「部分」であることがより強調されている印象を受ける。スタジオで撮影されたと思しき、ヌード作品が含まれていることにも意表をつかれた。被写体は女性と赤ん坊のようだが、ほかの写真よりもやや浮遊感のある撮り方をしている。つまり、小平の写真の世界も少しずつ拡大し、形を変えつつあるということだろう。
とはいえ、ベーシックな部分での撮影の姿勢にはまったく揺るぎがない。展覧会に寄せた文章を、彼は「気の向くままに撮り歩いていると、理由はわからないが眼が引き付けられることがある」と書き出している。違和感を覚えつつもそこにカメラを向け、シャッターを切るのだが、「眼が捉えてから物事に気付いている事実に動揺する」のだという。普通なら、当たり前に思えてしまうこのような心の動きに、小平はこだわり続けている。それは写真撮影を通じて「意識にそれを見ろ、判断しろと促し続ける、もう一つの隠れた存在」を明るみに出そうとつねに心がけているからだ。今回の展示を見ると、「気の向くまま」ということだけではなく、より意識的に撮影のプロセスを構築するようになってきているようにも思える。それこそ、ゴールの見えない作業の積み重ねには違いないが、彼にとっても、写真を見るわれわれにとっても、手応えと厚みのある作品の世界が形を取りはじめているのではないだろうか。
2018/01/20(土)(飯沢耕太郎)