2019年12月01日号
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artscapeレビュー

生誕100年 ユージン・スミス写真展

2018年02月15日号

会期:2017/11/25~2018/01/28

東京都写真美術館[東京都]

本展はアリゾナ大学クリエイティヴ写真センター(CCP)が所蔵する2600点のW・ユージン・スミスのヴィンテージ・プリントから、約150点を選んで構成したものだ。むろんそのなかには、彼の代表作である「カントリー・ドクター」、「スペインの村」、「慈悲の人(シュヴァイツァー博士)」といった、1940~50年代に『ライフ』に掲載された名作も含まれている。だが、初めて目にする作品も多く、スミスの写真家としてのあり方を再考させる造りになっていた。

特に注目したのは1950年代後半から60年代にかけての「ロフトの暮らし」と題する写真群である。スミスは『ライフ』のスタッフカメラマンを1954年に辞めてから、「ピッツバーグ」のシリーズに取り組む。だが、この叙事詩を思わせる大作はなかなか完成せず、経済的に困窮し、家庭生活も破綻した。スミスは1957年にマンハッタン島北部のロフトに移転して一人暮らしを始めるが、アルコールとドラッグに溺れて、心身ともに極度の混乱状態に陥ってしまった。「ロフトの暮らし」は、まさにこの時期に撮影された連作で、『ライフ』時代の、ひとつのテーマや物語性への執着が薄れたことで、逆に彼の写真家としての地金が露呈しているように思える。極端に黒(闇)を強調したプリント、断片的で不安定な画面構成などは、ほかの時代には見られないものだ。このような混乱をステップボードにして、最後の作品になった「水俣」へと踏み出していったということがよくわかった。

CCP所蔵のユージン・スミスのヴィンテージ・プリントには、まだ未知の可能性が潜んでいる。その全体像が見えてくるような、ひとまわり大きな規模の展示も考えられそうだ。

2018/01/13(土)(飯沢耕太郎)

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