2020年11月15日号
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artscapeレビュー

水越武「MY SENSE OF WONDER」

2018年11月15日号

会期:2018/11/06~2018/12/01

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

水越武はいうまでもなく日本の自然写真、山岳写真の第一人者であり、『槍・穂高』(1975)以来多くの写真集を刊行し、記録性と表現性とを合体させた新たな領域を切り拓いてきた。1988年末に北海道弟子屈町の屈斜路湖畔に移住し、自然と一体化した生活を営みながら写真家として活動している。彼の写真は山岳、原生林、氷河などのテーマ性をしっかりと確立し、一枚一枚の写真を厳密に選んで組み上げていくものだ。ところが、今回東京・築地のコミュニケーションギャラリーふげん社で開催された「MY SENSE OF WONDER」には、時期的にも主題的にもかなり幅の広い写真が集められていた。50年近い写真家としての経験を積み重ねるなかで、観客(読者)との写真を通じたコミュニケーションをより強く意識するようになり、エモーショナルな共感を呼び起こすような写真も積極的に取り入れるようになったということのようだ。

とはいえ彼の写真と、アマチュア写真家たちが趣味的に撮影する、いわゆる「ネイチャー・フォト」とのあいだには越えがたい距離がある。今回の展示は「人間の生活圏」で撮影された「水の音」(前期、20点)と、人間界から隔絶した自然を対象にした「光の音」(後期、20点)の2部構成で展示されていた。第1部と第2部の写真にそれほどの違いは感じられない。だがそこに一貫しているものこそ、まさに彼独自の「MY SENSE OF WONDER」なのではないかと思う。では、その「SENSE OF WONDER」とは何なのか。彼自身のコメントを引用すれば「それは自然への好奇心であり、自然の中で森羅万象に出会って驚き、感動し、それに加えて畏敬の念を持って不思議だと思う心である」ということになる。言っていることは単純と言えば単純だが、「好奇心」「驚き」「感動」「畏敬の念」を、つねに新鮮なエッジを保って発揮し続けることはそれほど簡単ではないはずだ。屈斜路湖畔の「森の生活」で鍛え上げた彼の「SENSE OF WONDER」は、いまや多様な被写体に対して融通無碍にその波動を広げつつあるのではないだろうか。

2018/11/10(土)(飯沢耕太郎)

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