2021年09月15日号
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artscapeレビュー

山城知佳子『あなたをくぐり抜けて』

2018年11月15日号

会期:2018/10/12~2018/10/13

京都芸術センター[京都府]

あいちトリエンナーレ2016で発表され、反響を呼んだ映像作品《土の人》の展示とともに、同作から展開されたパフォーマンス作品をKYOTO EXPERIMENT 2018にて発表した山城知佳子。映像で構築した世界をどうパフォーマンスとして表現し、「いま・ここ」の観客の生身の身体に反響させることができるか。それは、「沖縄戦の記憶の継承」という山城の過去作品に通底するテーマとも繋がっている。起点として、サイパン戦の生存者の証言を山城が自身の声と身体でなぞった《あなたの声は私の喉を通った》(2009)があるが、本作では、ヒューマンビートボックス・アーティスト、ラッパー、DJ、そしてエキストラのパフォーマーたちとの協同作業を通して、「記憶の継承と他者への分有」の営みが、山城自身からさらに若い世代へと受け渡され、提示された。

天幕のように頭上を覆うスクリーンの下、観客は床に座って鑑賞する。正面右側にはリビングルームのようにテレビとソファが置かれている。出演者の男性3人が登場し、テレビをつけると、安倍首相とトランプ米大統領の会見が流れる。日米同盟、安全保障の重要性を述べる安倍首相。スクリーンには東京と思しき夜の市街地を俯瞰で捉えた映像が流れ、不穏なサイレンが鳴り響く。平凡な日常の光景と、場違いなサイレンの不協和音。それは、かつて鳴り響いた「空襲警報」の残響なのか、起こり得る未来の予兆なのか。時空の混淆は既に始まっている。観客はそのただなかに、身体ごと投げ込まれる。



山城知佳子『あなたをくぐり抜けて―海底でなびく 土底でひびく あなたのカラダを くぐり抜けて―』2018 京都芸術センター
[撮影:前谷開 提供:KYOTO EXPERIMENT事務局]

スクリーンは沖縄戦の記録映像に切り替わり、頭上を閃光が飛び交い、砲弾が炸裂する。初めはサイレントだった映像に、記憶が蘇るように「音」が付いて流れ出すとき、見ている私たちもまた、誰かの網膜に映った記憶を追体験しているような錯覚に陥る。「ヒューン」という砲弾の飛来音、激しい炸裂音、「ドドドドドッ」という機銃掃射の音。だがそれらの「音」は、ヒューマンビートボックス・アーティストのSh0hにより、眼前で奏でられているのだ。フィルムから失われた「音」(それは、沖縄戦体験者の耳奥にこびりついていたであろう音だ)が、「いま・ここ」でヒューマンビートボックス・アーティストの身体を通して再び鳴り響く。やがて砲撃音は止み、彼が奏でる小鳥のさえずりが「戦争の終結」を暗示する。だが、それが建設機械の作業音のような音に変わるとき、基地の建設という「復興」、さらには(日本政府が押し進める)辺野古の埋め立てという「未来」も予感させる。また、(《土の人》の展開と同様に)ヒューマンビートボックスによる爆撃音が、爆音のクラブミュージックへと変わるとき、戦争とポップカルチャー、軍事的支配と娯楽という「アメリカ」の二面性が音響的に示される。

このように前半は、映像と音響のライブパフォーマンスとの相乗効果により、沖縄の過去・現在・未来が交錯した多重的な時空間が差し出される。そして時空の混濁は、死者を召喚させるだろう。深く息を吐くような音とともにゆっくりと現れる、俯き加減で顔のよく見えない、白衣の者たち。彼らはくずおれるように傾斜を転がり落ち、座る観客どうしの間に身体を割り込ませて侵入してくる。スクリーンには深い森や揺れる草、銃を構える米兵、飛び交う閃光や砲撃が映る。大地と溶け合ったように身を横たえる彼らが、夢のなかで繰り返し見ている記憶なのだろうか。やがて彼らは一人、また一人と立ち上がり、低い呟きを口々に発しながら歩き始める。殺さないでという嘆願、母と姉の背中を追いかけてジャングルを必死に逃げたこと。ひと際大きな声が、力強いラップのリズムを刻んでいく。沖縄出身のラッパー、Tokiiiが、戦争を二度と起こしたくないという思いと平和で美しい島への希求をストレートに歌い上げる。戦争から「80年」、「90年」、「100年」が経った未来から彼は語りかける。時間はどんどん前へ進み、やがて彼の声は不気味に歪み、切り刻まれた断片のエコーとなって亡霊的に宙を漂う。スクリーンには、《コロスの唄》(2010)、《沈む声、紅い息》(2010)、《肉屋の女》(2012)、《土の人》など山城の過去作品の断片が流れ、ライブの手持ちカメラで捉えられた客席の映像も差し挟まれる。

終盤では一転して、スクリーンに映った百合の花に祈りを捧げるように、パフォーマーたちが両手を天に差し出し、クラッピングの力強いリズムを刻んでいく。《土の人》の圧巻のラストシーンが、ライブパフォーマンスで再現された。それは死者との交歓のようにも、生命の力強さを寿いでいるようにも見える。最後は山城自身も観客もクラッピングに参加し、力強いリズムが会場を満たした。



山城知佳子『あなたをくぐり抜けて―海底でなびく 土底でひびく あなたのカラダを くぐり抜けて―』2018 京都芸術センター
[撮影:前谷開 提供:KYOTO EXPERIMENT事務局]



山城知佳子『あなたをくぐり抜けて―海底でなびく 土底でひびく あなたのカラダを くぐり抜けて―』2018 京都芸術センター
[撮影:前谷開 提供:KYOTO EXPERIMENT事務局]

本作の元となった《土の人》でも「声」と「言葉」は重要な要素だが、本作の制作過程において山城は、ラッパーのTokiiiや40名以上のエキストラのパフォーマーたちに、沖縄戦の体験者の言葉を読んでもらい、それぞれが一人称に置き換えて捉え直す作業をしてもらったという。多数の「あなた」の身体をくぐり抜けた声を聞く観客もまた、いささかの居心地悪さの感覚とともに身体的に巻き込まれざるをえない(這うように身体をねじ込ませてくるパフォーマーとの接触、映像を客観的に「見ている」自分たちがライブカメラで映し出され、「見られている」という反転)。映像と音響と生身のパフォーマンスが身体感覚を揺さぶり、ドキュメントや証言と想像力の交差により、「過去・現在・未来」が多重的に重なり合う時空間のなか、他者の記憶の共有・継承への可能性が、舞台の一回性の経験として迫る作品だった。


公式サイト:https://kyoto-ex.jp/2018/

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2018/10/13(土)(高嶋慈)

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