artscapeレビュー

建築×写真 ここのみに在る光

2018年11月15日号

会期:2018/11/10~2019/01/27

東京都写真美術館[東京都]

19世紀半ばに写真術の発明が公表されるされると、建築物はすぐにその重要な主題となった。初期のダゲレオタイプ、カロタイプ、湿版写真などの撮影には長めの露光時間が必要だったので、人間や乗り物など、動くものを定着するのは技術的にむずかしかったからだ。建築物は静止しているので、写真の被写体としてふさわしいものだったのだ。それだけではなく、建築物の外観や内部の構造を細部まで精確に捉えるのに、写真の優れた描写力が有効に働いたということもある。写真はその点では、絵画や版画をはるかに凌駕していたのだ。

東京都写真美術館の収蔵作品を中心とした今回の「建築×写真 ここのみに在る光」展の「第1章」には、写真草創期の19世紀から20世紀初頭にかけてヨーロッパやアメリカの写真家たちが撮影した古典的な名作が並ぶ。さらに「第2章」では、第二次世界大戦後の日本の写真家たちの作品が取り上げられていた。渡辺義雄、石元泰博、村井修、二川幸夫、原直久、北井一夫、奈良原一高、宮本隆司、柴田敏雄、瀧本幹也というその顔ぶれを見ると、彼らの作風の幅がかなり広いことに気がつく。建築物に対する日本の写真家たちの解釈も、モダニズムからポスト・モダニズムまで、リアルな描写から抽象表現まで、大きく揺れ動いてきた。別な見方をすれば、建築写真の表現の変遷を辿り直すと、そこに「もうひとつの写真史」が出現してくるということでもある。例えば、北井一夫が1979〜80年に撮影したドイツ表現派の建築作品のように、被写体と写真家たちの関係のあり方を思いがけない角度から照らし出してくれる建築写真の面白さに、あらためて気づかせてくれたいい展覧会だった。

2018/11/11(日)(飯沢耕太郎)

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