artscapeレビュー
《国立現代美術館ソウル館》《ソウル市立美術館》《アモーレパシフィック美術館》
2019年04月15日号
国立現代美術館ソウル館、ソウル市立美術館、アモーレパシフィック美術館[韓国・ソウル]
ソウルの展覧会をいくつかまわった。国立現代美術館ソウル館は、現代的な情報環境がもたらす社会状況をテーマにすえた企画展「Vertiginous Data」が興味深い内容だった。監視カメラなどで顔認証されることに抗議する仮面の作品ほか、フォレンジック・アーキテクチャーも参加している。これまで彼らは遠隔地から調査することが多かったように思うが、テロリストと間違えられ、殺害された民間人の理不尽な事件を扱う作品では、現地で検証する作品が紹介されていた。同館では、フィラデルフィア美術館のコレクションを用い、上野の東京国立博物館で開催した「マルセル・デュシャンと日本美術(The Essential Duchamp)」展が巡回しており、やはり蛇足となった最後の部屋(日本美術の紹介)はなく、逆に違う作品も入っていた。ただし、《大ガラス》は映像のみの紹介である。また足を運ぶ時間はなかったが、東京国立近代美術館の「アジアにめざめたら」展も、国立現代美術館別館に巡回している。
ソウル市立美術館の「デイヴィッド・ホックニー」展は、多くの若い来場者で賑わっていたことが印象的だった。初期の謎めいたポエティックな作品、ロンドンとはまったく異なる環境に刺激されたロサンゼルスでの展開、群像をいかに描くかという試行錯誤、ピカソが亡くなったことを受けて、ギターの絵をモチーフとしたオマージュの連作、ホテルの中庭を独特の手法で描くなど、透視図法の解体、写真やデジタル技術への関心、近年の複数キャンバスによる巨大絵画など、彼のさまざまな実験の軌跡をたどる充実の内容だった。また、最近オープンした化粧品メーカーの《アモーレ・パシフィック新社屋》は、建築もなかなか優れたデザインだったが(設計はデイヴィッド・チッパーフィールド)、地下の美術館も気合が入っている。ビル・ヴィオラ、ジョセフ・コスース、ロバート・インディアナ、韓国のアーティストのナム・ジュン・パイクやイ・ブルなど、コレクション展では、力のある現代美術の作品を紹介していた。
2019/03/30(土)(五十嵐太郎)