2019年11月15日号
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artscapeレビュー

石田榮「はたらくことは生きること──昭和30年前後の高知」

2019年04月15日号

会期:2019/04/02~2019/05/06

JCII PHOTO SALON[東京都]

石田榮は1926(大正15)年に香川県に生まれ、機械見習工を経て海軍に召集され、海軍特別攻撃隊菊水隊白菊隊の整備兵として終戦を迎えた。復員後、高知県で農業機械の会社に勤めるようになり、その傍ら、譲り受けたドイツ製の「セミイコンタ」カメラで、働く人々の姿を撮影しはじめる。「家から近いこと、危険が少ないこと、そして日曜日でも仕事をしているところをテーマにしたい」と考えたのだという。昭和30年代に高知市、南国市、大豊町一帯で撮影した写真は、その後長く「セロファン製のアルバム」に入れたまま眠り続けていた。だが、2012年に大阪ニコンサロンで開催した個展「明日への希望を求めて──半世紀前の証」が注目され、2016年に写真集『はたらくことは生きること』(羽鳥書店)が刊行される。今回JCII PHOTO SALONで開催されたのは、そのアンコール展示というべき写真展である。

「浜」「港」「石灰」「農」「里」「商」の6部構成で展示された、70点余りの作品は、表現的な意図よりも記録に徹するという姿勢で撮影されたものだ。どの写真も、画面の隅々までピントが合っており、視覚的な情報量が豊かである。だからこそ、60年以上の時を隔てていても、その時代の空気感がまざまざと甦るようなリアリティがある。何よりも貴重なのは、それらの写真に、いまではほとんど失われてしまった、体を使って「はたらくこと」のありようが細やかに写り込んでいることだろう。身体性が剥ぎ取られ、抽象化してしまった現在の労働よりも、豊かで充実した生の営みが、ごくあたり前におこなわれていたことに胸を突かれる。石田が戦時中に出撃する特攻隊の兵士を見送る立場にいたことが、これらの写真を撮影し続けた動機のひとつになっていることは間違いない。まさに「はたらくことは生きること」であることを、カメラを通して日々確認することの喜びが伝わってきた。

2019/04/02(火)(飯沢耕太郎)

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