artscapeレビュー

百年の編み手たち ─流動する日本の近現代美術─

2019年04月15日号

会期:2019/03/29~2019/06/16

東京都現代美術館[東京都]

3年ぶりのリニューアル・オープンだそうだが、館内に入ってみてそれ以上の懐かしさを覚えた。なんだろうこの感覚……実際より長く感じられるというのは、どういう心理だ? そんなに待ち遠しかったわけでもないのに。たぶん内観も外観もほとんど変わっていなかったから、逆に「久しぶり感」が増幅されたのかもしれない。すっかり変わっていたら懐かしさなんて感じなかったはずだし。

企画展示は、第1次大戦の始まった1914年を起点とし、ここ100年間の美術の流れを14章に分けて概観するもの。これは元号でいうと、ほぼ大正、昭和、平成の3つの時代に収まる。平成最後の年としてはタイムリーな回顧といえる。1章は、文展から独立して二科会が結成され、日本美術院が再興し、詩と版画の同人誌『月映』が発刊された「はじまりとしての1914年」。これはいいとして、鹿子木孟郎の記念碑的な「震災画」や、震災後の中原實によるモダンな絵が壁面に広がる2章の「震災の前と後」は、あまり知られていない作品が多く、とても興味深い。さらに4章の「戦中と戦後」には、藤田嗣治の《千人針》や敗戦直後の中原實の奇妙な敗戦画など、実物を見るのが初めての珍しい作品が並ぶ。中原實はこれまでほとんど知らなかったので、もっとまとめて見たくなった。また、桂ゆきや朝倉摂といった先駆的な女性作家をしっかり紹介しているのも新鮮だった(時代の趨勢とはいえ)。

しかし首を傾げてしまう選択もある。60-70年代のネオ・ダダからもの派までの作品が手薄に感じられる一方、9章では「地域資源の視覚化」として環境問題をテーマにする磯辺行久ひとりにスポットが当てられていて、違和感は否めない。確かに磯辺の仕事は重要かつユニークではあるが、それだけにこの1章だけ浮き上がってしまっている。


80年代以降はほぼ見慣れた作家や作品が選ばれている。11章は杉本博司、村上隆、大竹伸朗、柳幸典ら世界を目指した「日本と普遍」、12章は豊嶋康子、風間サチコ、Chim↑Pomら社会に目を向けた「抵抗のためのいくつかの方法」と、分類もわかりやすい。

ユニークな視点を示したのが、巨大な吹き抜け空間を使った13章の「仮置きの絵画」だ。貧相な襖や屛風を支持体にした会田誠の「戦争画RETURNS」や、キャンバスを張りながら手で描く小林正人の《Unnamed#18》、壁の隠れた部分に寄生するように展示した末永史尚の《Tangram-Painting》など、変則的絵画を集めたもので、これらをひとつに括る発想はなかったなあ。これまで親しんできた東京国立近代美術館的(つまり優等生的)な日本近代美術史観とは違う、MOT的美術史観を示してくれた。

2019/04/03(水)(村田真)

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