artscapeレビュー
ユアサエボシ「プラパゴンの馬」
2019年04月15日号
会期:2019/03/07~2019/03/31
EUKARYOTE[東京都]
「大正生まれの架空の三流画家であるユアサエボシ、今展覧会では2015年に美術出版社から発見された当時の文化人の執筆による原稿資料の公開とともに、1965年に京橋の貸し画廊で行なわれた個展の再現を2Fにて行ないます」という紹介文で始まるプレスリリースを読んで、頭が混乱する。ユアサエボシとは誰なんだ? 作者がユアサエボシか? 何歳なんだ? と思って略歴を見ると……。
1924年生まれ。福沢一郎絵画研究所に入り、エルンストに倣ってコラージュを制作したり、看板屋の仕事をしたり、山下菊二の戦争画の制作助手を務めたり。戦後は進駐軍相手に似顔絵を描き、山下や高山良策らと前衛美術会に参加し、加太こうじから紙芝居の仕事をもらったりしながら渡米、岡田謙三らと交流しつつ作品に使えそうな新聞や雑誌を集めて制作し、京橋の貸し画廊で個展を開く。その後アトリエ兼自宅が全焼し、火傷の後遺症で1987年に没、とある。もちろんこれは架空の画家ユアサエボシの略歴だが、作者はこの画家になりきり、この略歴に則って作品を発表しているのだ。ご丁寧に「ユアサはいつも寝癖が酷く、髪が逆立っていて、烏帽子のようであったことから“エボシ”と呼ばれるようになる。後にユアサエボシを作家名とする」と注釈までつけている。
今回は、1階で戦前のコラージュ作品、2階で貸し画廊の個展に出した紙芝居シリーズを発表、という設定。コラージュはなかなか繊細でエルンストの《百頭女》を彷彿させ、紙芝居は半世紀以上前の懐かしきレトロフューチャーな絵柄。これは惹かれるなあ。気になるのは、作者は自分の描きたいものを描きたいように描いて「ユアサエボシ作」ということにしているのか、それとも、あらかじめ設定した「ユアサエボシ」に自分を当てはめて別人格として描いているのか、ということだ。いずれにせよ作者は二つの人格を生きていることになる。
ぼくが最初にユアサの作品を見たのは、2年前の岡本太郎現代芸術賞展に出していたとき。150枚の瓦にGHQのポートレートを描いた力作だったが、これも略歴にあるとおり戦後の作品ということになる。この略歴が絶妙なのは、ユアサが昭和という時代を丸ごと生きてきたこと、登場する福沢や山下や高山らが戦争(および戦争画)に関係していたこと、展覧会も実在し、ユアサの行動や出来事もいかにもありそうなことだ。これからもこの略歴に沿って制作し、発表していくんだろうか。
2019/03/21(木)(村田真)