artscapeレビュー
第21回亀倉雄策賞受賞記念 色部義昭展「目印と矢印」
2019年04月15日号
会期:2019/04/04~2019/05/21
クリエイションギャラリーG8[東京都]
本展のタイトル「目印と矢印」とは、グラフィックデザイナーの色部義昭が一般の人に向けて、グラフィックデザイナーの職能をわかりやすく説明する際によく用いる言葉だという。「目印と矢印をつくる人」あるいは「目印と矢印をデザインする人」とでも言っているのだろうか。確かにその言葉どおり、色部の仕事には美術館や公共施設のブランディング、サイン計画が多い。「design」という単語には「sign」という単語が隠れているとおり(デザインの語源については諸説あるが)、「印」をつくることはグラフィックデザイナーにとって基本中の基本とも言えよう。そんな色部が手がけたOsaka MetroのCI計画に、第21回亀倉雄策賞が与えられた。本展はその受賞記念展である。
会場を訪れると、市原湖畔美術館、須賀川市民交流センターtette、東京都現代美術館、天理駅前広場コフフンなどの公共施設のサインが原寸模型として展示されていた。いわば立て看板のような状態で、会場のいたるところにサインが置かれているのだ。原寸ゆえにそのサインが伝える指示もリアルで、矢印の方向へ進むと、本当にその先にトイレや展示室、ホールがあるような錯覚すら起こす。サインとひと口に言っても、その形態や形状はさまざまで、色部の表現の幅を思い知った。しかもどれを取っても、どこか人間的で、親しみやすさを抱ける点に共感を持てる。
そして会場の奥へと進むと、いよいよ受賞作が登場する。これは公営から民営への移行に伴ない、2018年に新会社として開業したOsaka MetroのCI計画である。チラシなどに載っているグラフィックだけでは気づかなかったが、まるで新体操のリボンのように螺旋状にくるくると回る様子を彷彿とさせる「M」の文字は、視点を90度回転させて見ると、なんと「O」の文字をも内包していた。車内や駅構内のスクリーンで流しているというモーションロゴを見ると、その構造がよくわかり、思わずハッと息を飲む。もっとも奥まった展示室では2面の壁面を使って、実際の地下鉄車内や大阪市内の街の風景を映した映像が流れていた。以前に大阪に住んでいたことのある私にとってそれは懐かしい風景であると同時に、「M」のロゴが新しく加わった街の風景はどこかよそゆきの顔をしているようにも見えた。しかし採用から1年が経ったいま、大阪市民にとって「M」のロゴはもはや馴染みの顔となったのかもしれない。
公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/201904/201904.html
2019/04/11(木)(杉江あこ)