artscapeレビュー
野村恵子「山霊の庭 Otari-Pristine Peaks」
2019年04月15日号
会期:2019/03/16~2019/04/13
Kanzan Gallery[東京都]
このところ、女性写真家たちの質の高い仕事が目につくが、野村恵子もそのひとりである。1990年代にデビューした彼女と同世代の写真家たちが、それぞれ力をつけ、しっかりとした作品を発表しているのはとても嬉しいことだ。野村は昨年刊行した写真集、『Otari-Pristine Peaks 山霊の庭』(スーパーラボ)で第28回林忠彦賞を受賞した。今回の展示はそれを受けてのことだが、菊田樹子がキュレーションするKanzan Galleryでの連続展「Emotional Photography」の一環でもある。
雪深い長野県小谷村の人々の暮らし、祭礼、狩猟の様子などを「湧き上がる感覚や感情を静かに受け入れながら」撮影した本シリーズは、たしかに「感情」、「情動」をキーワードとする「Emotional Photography」のコンセプトにふさわしい。特に、妊娠し、子どもを産む若い女性の姿が、大きくフィーチャーされることで、ほかの山村の暮らしをテーマとするドキュメンタリーとは一線を画するものとなった。
野村と菊田による会場構成も、とてもよく練り上げられていた。壁には直貼りされた大判プリントとフレーム入りの写真が掲げられ、写真とテキストを上面に置いた白い柱状の什器が床に並ぶ。ほかに、3カ所のスクリーンで映像をプロジェクションしているのだが、その位置、内容、上映のタイミングもきちんと計算されている。写真集とはまた違った角度から、「山に生かされて」暮らしを営む人々の姿が重層的に浮かび上がってきていた。近年、ドキュメンタリー写真における展示の重要度はさらに上がってきているが、それによく応えたインスタレーションだった。
2019/03/27(水)(飯沢耕太郎)