2019年08月01日号
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artscapeレビュー

鈴木理策「意識の流れ」

2015年08月15日号

会期:2015/07/18~2015/09/23

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

2015年2月1日~5月31日に丸亀市猪熊源一郎美術館で開催された鈴木理策「意識の流れ」展が東京オペラシティアートギャラリーに巡回してきた。同展のカタログにおさめられた倉石信乃との対談「写真という経験の為に」で、倉石の「鈴木さんはわりと、経験主義者なわけですよね」という問いかけに対して、鈴木は「はい、とても」と答えている。だが、この場合の「経験」というのは、微妙なバイアスがかかった概念だと思う。
ひとつには、今回の展示作品のテーマとなる熊野(鈴木の故郷でもある)の自然や祭礼を、直接的ではなく、あくまでも写真を通じて「経験」しているということだ。むしろ、現実と写真との間のズレこそが鈴木の最大の関心のひとつになる。同カタログに「人間の目とカメラの目には必ずズレが生じるという事実は、私が写真に魅かれる最大の理由である」と書いている。もうひとつは、あくまでも自分の個人的な「経験」にこだわりつつも、それを狭隘な「経験主義」に封印することなく、より広く開いていこうとする態度が見られることだ。鈴木の写真を見ていると、むしろ彼自身の眼差しや身体性が消え去り、より普遍的な、人類学的とすらいいたくなるような「経験」が姿をあらわすように思えてくる。
それにしても、鈴木の写真作品の展示には、ある程度以上の大きさを持つ器が必要になるのではないだろうか。今回は「海と山のあいだ」の連作を中心に、「水鏡/Water Mirror」「White」「SAKURA」「 tude」の5作品、約150点が並んでいたのだが、プリントを「見せる」ことを作品発表の基本と考える彼にとって、作品をインスタレーションする環境のあり方が大事な要素となることがよくわかった。全体にバランスのとれた展示だったが、むしろそのバランスを突き崩す仕事、近作の花のシリーズ「 tude」(2010~14年)や動画作品「The Other Side of the Mirror」(2014年)などに、この写真作家が止まらずに動き続けていることが、くっきりとあらわれてきている。さらなる「経験」の広がり、深まりが期待できそうだ。

2015/07/17(金)(飯沢耕太郎)

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