artscapeレビュー

田凱「生きてそこにいて」

2019年08月01日号

会期:2019/07/23~2019/08/24

ガーディアン・ガーデン[東京都]

田凱(Den Gai)は1984年、中国生まれの写真家。2014年に日本写真芸術専門学校を卒業し、2018年に第19回写真「1_WALL」でグランプリを受賞した。今回のガーディアン・ガーデンでの個展は、その受賞展として開催されたものである。

田が撮影したのは天津近郊のとある街である。彼の故郷でもあるその街には、油田があり、かつては石油産業とともに栄えていた。だが、その衰退とともに、どことなく荒廃の気配が漂い始めている。田は、街の佇まいと友人を多く含む住人たちを、4×5インチ判の大判カメラで5年間にわたって撮影し続けた。被写体との距離の取り方、画面へのおさめ方に細やかな配慮が感じられ、ゆったりとした、スケールの大きさを感じさせるプライヴェート・ドキュメンタリーとしてきちんと形になっている。写真を見ながら、台湾の侯孝賢の映画(『恋恋風塵』、『非情城市』など)の雰囲気を思い起こした。

田がこのシリーズをさらに撮り進めていくのか、それともこれで完結なのかはわからないが、ぜひ写真集にまとめてほしい。ただ、その場合には個々の写真のバックグラウンドを、もう少し丁寧に言語化する必要がある。写真集のチラシに、子どもの頃の石遊びの情景や、上海で再会した幼な馴染みがホモセクシュアルであることを告げたことなど、断片的な記憶が記されていた。興味深いエピソードが多いので、それらをもう少ししっかりと展開し、写真とうまく組み合わせていけば、より伝達力の強いフォト・ストーリーになっていくのではないだろうか。

2019/07/25(木)(飯沢耕太郎)

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