artscapeレビュー

subjektive fotografie vol.4 原本康三

2022年03月01日号

会期:2022/01/19~2022/02/12

スタジオ35分[東京都]

東京・新井薬師前のスタジオ35分で連続的に開催されてきた「subjektive fotografie」展も4回目を迎えた。新山清、大藤薫、後藤敬一郎に続いて、今回は広島出身の原本康三(1921-2006)を紹介している。ドイツ・ザールブリュッケンのオットー・シュタイネルトが1950年代に展開した「subjektive fotografie」展(日本では「主観主義写真」と称された)には、同時代の何人かの日本人写真家が参加している。原本康三もその一人で、シュタイネルトの企画で1959年に開催された「subjektive fotografie 3」展に出品し、同展のカタログを兼ねて1959年3月に、スイス・ローザンヌで刊行された『camera』誌の「subjektive fotografie」特集にも、マン・レイ、ラースロー・モホイ=ナジ、ハーバート・バイヤー、アーヴィング・ペンらとともに作品が掲載されている。今回は、残された数少ないヴィンテージ・プリントから複写したニュー・プリントが展示されていた。

原本は、主に瀬戸内海沿岸の海辺に題材を求めて撮影を試みていた。魚介類、海辺の道、石垣、網などの日常的な事物を、白黒のコントラストの高いプリントに焼き付け、ときにはネガフォトなどのテクニックも用いている。極端な幻想性に走るのではなく、あくまでもリアルな実感が基調になっており、画面構成のテンションも高い。とりたてて特徴のある作風とはいえないが、この時期の「主観主義写真」の作り手の表現レベルを、しっかりと体現しているといえるだろう。

スタジオ35分の連続展示によって、短命には終わった日本の「主観主義写真」の時代の見取り図が、少しずつ明らかになってきた。次世代の写真家グループVIVOとその周辺の写真家たちを含めて、その射程は意外なほどの広がりを見せている。そろそろ、その全体像を外観できる写真集、あるいは展覧会を企画するべき時期が来ているのではないだろうか。

2022/02/04(金)(飯沢耕太郎)

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